見出し画像

「人でなければできないこと、データを使って進めるべきこと」RIZAPグループ株式会社 鎌谷賢之×西内啓対談 vol.2

西内啓の対談シリーズ。RIZAP(ライザップ)グループの鎌谷賢之さんの後編です。RIZAPグループの成長戦略や、教育産業とRIZAPの意外な共通点、RIZAP GOLFの革新性などについて語ります。
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

前編はこちら
https://blog.dtvcl.com/n/n40d726c12249

「10キロ痩せたあとに何をしたいか」が目標設定には重要

西内 ここまでRIZAPの本業の部分についておうかがいしましたが、ここから少しグループの成長戦略についてのお話をお聞きしたいと思います。鎌谷さんはこれまで、RIZAPグループで多くのM&Aに携わってきたかと思うのですが、買収の判断をどのような基準に基づいて判断されてきたのでしょうか。

鎌谷  RIZAPグループの成長戦略をこれまで支えてきたM&Aですが、その基準としては、経営再建を早期に終わらせたあと、共通の顧客基盤やデータを活用しながら、どこまでグループシナジーを大きく伸ばすことができるかを重要な判断基準にしてきました。グループ会社も巻き込んだかたちのデータ活用は今後も課題ではありますが、非常にポテンシャルはあると思いますね。

画像1

西内 まずはそれぞれの会社内でデータを活用して、ある程度再建が終わった段階でそれを横に広げていくというようなイメージでおられるのでしょうか。

鎌谷 はい。例えば、経営再建に目途が立ち、成長段階に移行した会社がデータを積極的に活用できるようになっていれば、そのデータを組み合わせて持ち寄ることで、新しい顧客に対するさらなる価値創造ができるようになります。そのためには、1つ1つの会社が強くなくてはいけません。

西内 RIZAPグループで経営再建に成功した代表例として、ジーンズメイトが挙げられるかと思います。RIZAPとジーンズメイトのデータ上のシナジーとしては、「体型」という点が1つ挙げられるのではないかと思うのですが、今後そうしたグループシナジーという点で、何かお考えになっていることはありますか。

画像2

鎌谷 今後、RIZAPで得たデータを、グループ会社のお客さまに具体的にどう提案していくかということは課題です。

RIZAPのボディメイクは目標設定を非常に大切にしています。2か月で10キロ痩せるといった数値の目標ではなく、10キロ痩せたあとに何をしたいかという目標を設定するのが非常に重要です。本人が心の底からこうなりたいと思えるような目標を設定するのに、グループ会社とのシナジー連携をうまく活用することができないかと考えています。

西内 教育学の分野でも、最初に目標設定するかしないかをランダムにテストしたところ、目標を設定したほうが教育効果が高いという結果が出ています。

単純に5キロ減量するというのではなく、5キロ減量してどうしたいのかを具体的にイメージしたほうが効果的であるというエビデンスが、御社のデータからも見ることができるのではないかと思います。

目の前の人に「がんばりましょう」と言ってもらえるほうが、がんばろうと思える

西内 今後、RIZAPをもっと筋肉質な組織にしていくために、データの使い道について考えていることはありますか?

鎌谷 現在、企業として次の段階に進むために、経営全体のコーポレートガバナンスも含めまして、さまざまな仕組みやルール、ツールを模索している状況です。

その中で、RIZAPグループに共通する価値観として、「お客様へ寄り添う」というキーワードが挙げられます。そこには、人でなければできないサービスと、データを使って効率的に進めるべき部分とが共存すべきであると考えていますが、両者を高い次元で組み合わせて、他社には簡単に模倣できない唯一無二のサービスをつくっていけたらと思います。

西内 今後の軸として、人でなければならない分野と、データの両方をうまく活用してサービスを展開されていくのですね。

鎌谷 基本的な方向としては、そのように考えています。ただ、ここまでいけば完成ということはありませんので、今後も進化は続いていくと思います。

ところで、先ほど教育学のお話が出ましたが、実は私はソフトバンクからRIZAPへ移る前に、東進ハイスクールで教育の仕事に携わっていたことがあります。

東進ハイスクールは大変データドリブンな会社で、新サービスや学習コンテンツの導入にあたって、生徒の学習内容と模試の成績の相関などを分析して、何をやれば成績が伸びるか実証実験をしてデータを蓄積し、徹底的に活用しています。教育と健康の領域にはものすごい量のデータが存在し、しかもまだまだ活用の余地があるので非常に伸びしろが多い産業だと感じています。

西内 私はよく、AI関連製品の売上が伸びないという悩みを相談されることがあるのですが、感情価値がある仕事をAIにやらせて失敗しているケースが多いんですね。教育にしてもボディメイクにしても、機能的にはAIで代替できたとしても、目の前に人がいて、一緒に運動しましょう、がんばりましょうと言ってもらえるほうが、ロジックではなく感情でがんばろうと思えるものです。鎌谷さんのこれまでのキャリアの中で、そうした考え方が直感的に整理されている印象を受けますね。

鎌谷 相手が人だからこそ訴えられる領域が存在するのだということを知っているのと知らないのでは、データ活用の仕方がまるで違ってきます。現代では、必ずしもデータで世の中のすべてを解決できるわけではありません。データで解決できる部分と、人でなければできない部分を、自分なりに線引きすることは重要です。

創業者の瀬戸社長は、RIZAPのターゲット市場を「三日坊主市場」と定義していますが、この「三日坊主」という概念には、コンピュータだけでは解決できない、人の感情にかかわるメカニズムがあると考えています。

人の心を動かすときのインターフェイスは、人であるほうが効果的

画像3

鎌谷 例えば、西内さん、誕生日はいつですか。

西内 4月20日です。

鎌谷 お誕生日になると、LINEやFacebookなどのSNSが、自動的に西内さんに「おめでとう」というお祝いのメッセージを送ってくれますよね。ですが、自分がいつも通っているレストランやカフェの店員が西内さんの誕生日を覚えていてくれて、「おめでとうございます」と言われたら、もっと嬉しいじゃないですか。

他にも、人間ドックの結果を見るときに、単にコンピュータがつくったレポートを渡されるのと、看護師さんがそのレポートを見ながら怖い顔で「こんな生活を続けていたら、そのうち死んでしまいますよ」と言われるのとでは、全然違いますよね。

このように、人の感情を動かすときのインターフェイスは、人であるほうが効果的です。しかし、相手にどのようにアプローチすれば心を動かすことができるのかという部分は、データでサポートできると思うのです。

そうした意味で「こういうタイプの人にはこういうトレーニングが効果的である」というデータは、すでにRIZAPに蓄積されていて、その精度はどんどん上がっています。最近アップデートしたRIZAPのゲスト向けアプリ「RIZAP touch2.0」では、「フードアナライザー」という新機能を実装しており、これは食事の画像を撮影するとAIが自動で画像を解析して栄養素を算出してくれるのですが、このシステムも今後、数百万件、数千万件のレポートが蓄積されることでより精度が上がります。

西内 そこはユーザーの基盤がすでにある強みですね。

鎌谷 現代は、蓄積されたデータを活用して、サービスを進化させる時代です。30年前のように、多大な労力をかけてソフト開発をして市場に投入し、それで終わりという時代ではありません。

画像4

センシング技術でゴルフを科学。データに基づいたコーチングを可能に。

鎌谷 RIZAPでは、今から3年ほど前に、インドアゴルフシミュレーターを使ったRIZAP GOLFというサービスを開始しました。さらに、その次の進化ということで、ソニーのセンサー技術とRIZAP GOLFのノウハウを活用した新サービスを共同開発し、2018年2月に発表しています。

具体的にどのようなシステムかといいますと、専用のジャイロセンサーをゴルフクラブに装着し、そのゴルフクラブをスイングすると、スイングのヘッド軌道、入射角、フェイスアングルなどのクラブパスデータが算出されるというものです。さらには、スイング軌道が可視化されます。

鎌谷 自分のスイングデータは、レッスン中以外も専用アプリからいつでも確認できます。さらに、自分のスイング動画とプロのスイング動画を重ねて再生してくれるので「テイクバックの動作は正確にできているが、ダウンスイングのときにブレている」といった課題点が分かります。

日本中にいるゴルフのパーソナルコーチの中で、科学的なデータに基づいたコーチングができる人はあまりいないと思うのですが、RIZAP GOLFはそれを極めて高いレベルで可能にしました。

画像5

鎌谷 世界的なプロゴルフトーナメントで活用されているトラックマンと呼ばれる弾道計測器が1台数百万円するのに比べると、RIZAP GOLFのシステムはリーズナブルで、導入しやすいことも優位性のひとつです。数年前であれば世界のトッププロだけが利用していた最先端の技術やレッスン環境を、一般の人も手に入れることができるというのは、非常に革命的なことです。言い換えれば、データ活用をすることで、オリンピックで金メダルを獲るような方がやっているようなトレーニングを、非常に安価に受けることができる時代が目の前に来ているのです。

西内 軌道がデータとして残ると、それを分析することでこの人はこれから伸びるか、伸びないかということも分かりますね。

鎌谷 データが蓄積されることで、そうしたサービスも進化していきます。最初にスイング診断するだけで、その人の癖を正確に判定して、目標スコアに到達するまで2か月かかるか、3か月かかるかが判定できるようになったら、すごいことですよね。

もう1つ、RIZAPがなぜゴルフに注目したのかといいますと、メジャースポーツの中でも、ゴルフは唯一、親子三世代でできるスポーツと言われています。現代は人生100年時代と言われますが、RIZAPを通じて「健康で輝く人生」を送っていただきたいという思いが根底にあるのです。

画像6

西内 これと同じことが、他のスポーツでも横展開していくとおもしろいですね。技術的には同じようにモーションセンサーがあって、野球のバッティングや、サッカーのシュートなどにも応用できそうです。

鎌谷 スポーツ分野の技術は、めざましい進化を遂げています。サッカーボールの中にセンサーが組み込まれたスマートボールも登場していますし、今後、通信規格が4Gから5Gになって、試合中のリアルタイムのフィードバックなども可能となり、これまで考えられなかった様々なことができるようになっていきますね。

西内 GPSも精度が向上していますし、これからますますおもしろい時代になっていきますね。今日は興味深いお話をありがとうございました。

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
鎌谷賢之(かまや・たかゆき) RIZAPグループ株式会社 経営企画本部本部長
東京大学法学部卒。三洋電機 会長室・経営戦略部での経営ビジョン・経営再建プランの策定を経て、2009年ソフトバンクに入社。同社社長室の中心メンバーとして「新30年ビジョン」の策定、イー・アクセス社・米国Sprint社の買収など多数の戦略案件を担当。2014年東進ハイスクールを運営する「ナガセ」常務執行役員として新規事業の立上げや子会社の経営再建を担当。2017年RIZAPグループ入社。経営戦略部長を経て、現在は経営企画本部長として同社の構造改革プランの策定と推進を担当。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!