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「データの活用でさらに結果にコミットするサービスに進化したRIZAP」RIZAPグループ株式会社 鎌谷賢之×西内啓対談 vol.1

データビークルの最高製品責任者であり統計家の西内啓がデータ活用で成果をあげている企業・組織のキーパーソンの方とデータサイエンスの現実について語り合う対談シリーズ。第一弾は「結果にコミットする」でおなじみのプライベートジム「RIZAP」(ライザップ)を中心に、さまざまな企業とのM&Aで成長を続けてきたRIZAPグループで成長戦略を描く要として活躍する鎌谷賢之氏にお話を伺います。
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

ソフトバンク孫正義社長の懐刀から、RIZAPグループの経営企画統括へ

西内 まず、鎌谷さんのこれまでのキャリアと、RIZAPグループに入社した経緯を教えてください。

鎌谷 私は2009年にソフトバンクに入社し、2010年から同社の新30年ビジョンのプロジェクトリーダーに就任しました。このプロジェクトの検討テーマが「30年後、300年後に世界の人々の生活、産業、社会構造はどう変わるか」というものだったのですが、現在のところ、ソフトバンクやインターネット業界は、ほぼ当時まとめた未来予測に基づいて動いていると評価されているようです。

その後、教育産業の経営に携わっていたのですが、RIZAPグループの瀬戸社長とご縁がありまして、IT企業とは違うアプローチで社会貢献を目指しているということに関心を持ちまして、RIZAPグループのグループ戦略の統括として入社してちょうど3年目を迎えたところです。

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西内 鎌谷さんとは、私がソフトバンクのお手伝いをさせていただいたときからのご縁ですね。当時、週刊誌に『ソフトバンクがドコモを抜く日』というような特集があって、そこで鎌谷さんは孫正義さんの懐刀と紹介されていました。

鎌谷 西内さんの『統計学は最強の学問である』という書籍が『週刊ダイヤモンド』に特集されていて、同じ号に私のインタビューも掲載されました。その記事をたまたまソフトバンクの孫社長が目にしまして、この本の著者の方とぜひお会いしたいとソフトバンクの経営会議でおっしゃったんです。すると偶然にも、私の部下が西内さんの大学時代のバンド仲間だったということがわかりました(笑)。

西内 バンドサークルだったんですよね(笑)

鎌谷 当時、ソフトバンクの最大の経営課題であった「電波がつながらない」というイメージを払拭するために、ビッグデータを活用したのです。競合のNTTドコモのように、大規模な設備投資をする体力がなかったものですから、ソフトバンクのスマートフォンはどこの地域まで電波が届いていて、どこの地域で電波が届かないのか、ユーザのデータを集めて分析し、極めて効率よいかたちでネットワークを構築しました。通常10年ほどかかるところを、2,3年ほどで他社に見劣りしないネットワークを整えることができた裏には、データの力があったのです。

西内 その後RIZAPグループに参加されて、現在はどのような役割をされているのでしょうか。

鎌谷 現在80社を超えるRIZAPグループの経営企画全般の統括をしています。RIZAPグループはこれまで経営再建型のM&Aを中心に成長してきた企業グループですので、現在は、コア事業のRIZAPの成長と、M&Aでグループ入りしたグループ会社の経営再建が大きなミッションとなっています。

12万人を超える人が結果を出してきたというデータは心の支えにもなりうる

西内 現在は本業の拡大とM&Aの2点分野でご活躍されているのですね。では今RIZAPがシティズンデータサイエンスの現場で、どのようにデータを扱われているか、まず全体像を教えてください。

鎌谷 本業のパーソナルトレーニングジム「RIZAP」はおかげさまで累計会員数が12万人を超え、順調に伸長しています。お客様は平均してジムに3か月以上通われるのですが、その間毎日、朝昼晩の食事のデータと翌朝の体重・体脂肪のデータを専属のトレーナーに報告するんです。

これが累計12万人になりますと、数千万件のデータが集まります。ダイエット市場で、これだけの規模でゲストのデータを持っているところはほかにありません。そして、データが集まれば集まるほど、サービスの質的向上につながります。これまでは、RIZAPにお申込みいただくと、カウンセリング能力の高いトレーナーがゲストに寄り添うかたちで結果にコミットするということをしてきました。ところが、今では過去のデータに基づいて、どうすれば結果が出やすいか、データの力でより結果にコミットできるサービスに進化してきています。これらの検証とサービス化は、当社の事業基盤本部や研究チームを中心に随時おこなっています。

西内 今、メジャーリーグの世界でも同じようなことが行われています。例えば、選手を獲得する際、その将来性を予測するために、過去の膨大なデータの中から一番タイプの似通った選手を何人かピックアップします。そのデータをもとに、成績の予測曲線を描き出して採用・不採用を決定するんです。

御社でも同じように、ある特定の会員が、今後どのように体重や体脂肪率を改善させられるか、過去のデータをもとに予測するんですね。

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鎌谷 はい。RIZAPでは2年ほど前に、ボディナビゲーターというシステムを導入しました。入会時のカウンセリングでお客様のダイエットシミュレーションを行い、RIZAPメソッドによる体重や体脂肪の推移の予想に活用しています。カウンセリング時に経験豊富なトレーナーが経験と勘で説明するよりも、アプリのデータを示される方が、お客さまも圧倒的に納得されます。

西内 入会から3か月のプロセスで、自分は順当なペースなのか、それとも遅れているのかを、データから導きだすこともできるのですね。

鎌谷 ダイエットをしていると必ず停滞期があるので、毎日体重計に乗っているだけでは長続きしません。しかし、それをデータで見せられると、停滞期があるのは自分だけではないのだと思って乗り越えられます。体重や体脂肪の減り方も同じで、実際にデータを見ることで、RIZAPを通じて12万人を超える方が結果を出してきたという心の支えにもなりますよね。

RIZAPの急成長は「まぐれ」ではない

西内 御社では、そうした実際のサービスの中でデータを用いる以外にも、マーケティングにおいてもデータを活用しているとうかがいました。

鎌谷 はい。広告の費用対効果は厳しく見ていまして、データを使ってCMのレスポンスを定期的に測るということをしています。さまざまなパターンの広告をつくり、問合せのフリーダイヤルの電話番号も複数用意して、どの広告を見た方からのレスポンスが一番よかったかということを定量的に分析していますね。

西内 多くの会社では広告対効果を測定せず、効果がないところに広告を打ったり、逆にいい効果が出ていてもなかなか投資を増やせないという中で、御社が急成長してこられた裏側には、データに基づいたマーケティング戦略があったのですね。

鎌谷 そうですね。まぐれ当たりをしているわけではなく、起こるべくして起こった結果です。データを緻密に分析して、それに裏付けられた広告投資をここまで徹底できている会社はなかなかないのではないかと思います。同じように、ソフトバンクでも広告のテストマーケティングを徹底していました。例えば、白戸家のお父さんのCMなどは常に複数パターンを用意していまして、それぞれを深夜の時間帯に少しだけ投入するのです。そこで一番反響の大きかったCMをゴールデンタイムに投入するというやり方をしていました。

西内 RIZAPという会社で、データに基づいたマーケティングを展開しようとする文化が根づいた経緯には、どのような背景があるのでしょうか。

鎌谷 2003年に創業した RIZAPグループは、もともと「健康コーポレーション」という健康食品の通販会社でした。楽天市場で売上トップになった豆乳クッキーダイエットというヒット商品で、創業から4年目で売上高が100億円を超えたのですが、このときも広告を何パターンかつくって、反響の高かったものに集中投資するということをしていたのですね。経営戦略の専門家のあいだでは、戦略の1点集中ということが言われますが、当時健康コーポレーションという会社では既に、広告投資を1点集中するということを実践していたのです。

後編はこちら
https://blog.dtvcl.com/n/ne344c6c76da8

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
鎌谷賢之(かまや・たかゆき) RIZAPグループ株式会社 経営企画本部本部長
東京大学法学部卒。三洋電機 会長室・経営戦略部での経営ビジョン・経営再建プランの策定を経て、2009年ソフトバンクに入社。同社社長室の中心メンバーとして「新30年ビジョン」の策定、イー・アクセス社・米国Sprint社の買収など多数の戦略案件を担当。2014年東進ハイスクールを運営する「ナガセ」常務執行役員として新規事業の立上げや子会社の経営再建を担当。2017年RIZAPグループ入社。経営戦略部長を経て、現在は経営企画本部長として同社の構造改革プランの策定と推進を担当。