みんなによく手を洗ってもらうためにはどうすればいいのか?行動科学とデータ分析から考えてみた(第2回)
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。
前回、新型コロナウィルス対策のためには手を洗うことが大事だという話と、手を洗う人を増やすためには行動科学の考え方が役に立つという話をしました。こうした目的のために使われる有名な理論の1つに「統合行動モデル」と呼ばれるものがあります。
「手を洗う」の背景を統合行動モデルの枠組で考える
上記の図に従い、「手を洗う」という行動を統合行動モデルに沿って解説します。
まず実際に行動が起こるかどうかは、行動しやすい「環境」にいるか、本人が行動しようという「意図」を持っているか、そして行動に関わる「スキル」があるかどうかによって直接的な影響を受けます。
これを、「手を洗う」という行動に当てはめるとどうなるでしょう?
まず「スキル」と「環境」についてですが、我々の身の回りにおいて「手を洗いにくい環境に住んでいる」「手を洗うスキルがない」という理由で手を洗うことができないという人はそれほど多いとは考えられません。
では、「スキル」と「環境」はそろっていても「手を洗おう」と考えない人がいるのはなぜでしょう?手を洗おうと思ったり、思わなかったりするのには人それぞれの理由があるはずですが、これを大きく3つに分けて考えようというのがこの統合行動モデルの枠組みです。
それが冒頭の図表左端に書かれている「態度」「規範」「コントロール感」です。
1つめの「態度」とは簡単に言えば、そうした行動を具体的にどう良いと感じているのか、あるいは悪いと感じているか、という意識を指します。例えば、手を洗うことを「清潔だ」「気持ちいい」「プロフェッショナリズムが感じられる」といったように考えている人もいるでしょうし、逆に「手荒れが嫌だ」「面倒くさい」と考えている人もいるかもしれません。
一方、ある行動を取るかに影響する要因は個人の価値観だけには留まりません。「自分はいいとは思わないけどつい知人に影響されて行動を取っている」とか「自分はいいと思うけど知人が嫌がってるからやりにくい」という経験は皆さんもあるでしょう。これが2つめの「規範」という要因です。具体的にどういう間柄の人からの影響が強いのかを考えることで「誰から呼びかけてもらうべきか」「どういう人がその行動をとっていることをみんなにわからせればいいか」という判断材料になります。
さらに人間には「やった方が良いし、周りもやるべきだと思っているけど、なんだか行動できない」ということがしばしばあります。そうでなければ、ダイエットも筋トレも語学学習もみんなもっと上手くできているはずです。その「なんだか行動できない」という要因がなんなのか、が最後の「コントロール感」になります。
つまりこれは「自分がやろうと思ったときに、自分でコントロールできるか」ということです。よりわかりやすくいうと「こういう状況だったらできるのに」とか「こういう状況だったらやれる気がする」といった、いざやろうと思った時に、「できる場合」と「できない場合」はそれぞれどういうものだろうか?と考えるわけです。
「手洗いに対する意識」のうち、どれが実際の行動に繋がっているかを明らかにする
こうした様々な「手洗いに対する意識」のうち、どれが実際の行動に繋がっているのでしょうか?
おそらく「あまり実際の行動に関係していない」意識に関わるメッセージをどれだけたくさん発信したところで行動を変えることは難しいでしょう。そうではなくて「行動とよく関係していそう」な意識に訴求するメッセージを投げかけた方がスジが良いはずです。
こうした理論に基づき、私たちはいろいろな方にお話を伺ってみました。以下の4つの質問を投げかけて「どんな表現の言葉が返ってくるか」をみていったのです。
・ふだんからマメに手を洗っていますか?(目標行動)
・手を洗うことについてどう思いますか?(態度)
・周りでどんな人が手をよく洗っていますか?(規範)
・手を洗おうと思ったときどういう状況ならできると思いますか?(コントロール感)
そうして、返ってきたアイディアを整理してGoogleフォームに質問項目としてまとめたものを西内からtwitterで呼びかけて皆さまに答えてもらいました。(回答を締め切った時点でこのツイートは消去しました)
皆さまのご協力のおかげでなんと短時間に511名もの回答を頂きました。これだけあれば十分、回答者の方々の中における「よく手を洗っている人とそうでない人の違いがどの意識だったのか」を明らかにすることができます。
それでは次回、実際の分析結果とその解釈を見ていきましょう。