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「ベスト」ではなく「ベター」な意思決定をするためにデータがある / note株式会社 加藤貞顕氏×西内啓対談 Vol.3

西内啓の対談シリーズ。「note株式会社」加藤貞顕さんの第3回目です。誰もが新型コロナウイルスと共生しなければならないウィズコロナ時代、カギになるのはデジタルトランスフォーメーションです。そこでは、データを単に見るだけではなく、企業の意思決定にも活かしていくことが求められます。(前の記事はこちらから)
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

ウィズコロナ時代はデジタルトランスフォーメーションが鍵になる

西内 今、いろんな会社がデジタルトランスフォーメーションを実践していて、アナログにやっていたことをデジタルに移行しようとしています。そんな中、御社はデジタルネイティブな会社だという印象があります。それも、インターネットを使っているからデジタルだという話ではなく、さらにもう一歩踏み込んで、データドリブンネイティブな会社として成功している珍しい例ですね。

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加藤 たしかに弊社では、アプリケーションレイヤーに関してはデータ設計の仕組み化ができていますが、本当はもうすこしやりたいことがあるんですよ。本当は、ビジネスレイヤーまですべてつなげてデジタル化するべきだと思うんですね。

noteのような会社は、データが全部オンラインにあるので、究極、日次決算すら出せるはずなんです。いまはそういうことを目指して、ビジネスレイヤーまで含めてデータ設計の仕組みを統合できるよう努力しています。それができれば、経理上の効率化が進むだけでなく、経営の意思決定にも活用することができます。

西内 今、新型コロナウイルスの影響下でデジタルトランスフォーメーションできるかどうかが非常に重要になっていると思うんですね。先日も日経新聞での連載で言及したのですが、インターネットという技術をうまく活かすことができていた会社は、今回のコロナ禍でも比較的スムーズにテレワークに移行することができています。

一方で、デジタルトランスフォーメーションしきれていない会社では、印鑑を押すために出社しなければいけなかったり、書類を郵送するために手続きに遅れが出てしまったりということが起こっています。

インターネットを使った効率的な働き方を積極的に取り入れたかどうかや、社員がデータを扱いやすいよう検討してきたかどうかで、今後は思った以上に生産性に差が出そうな気がしています。

加藤 そうですね。弊社では新型コロナの影響が出始めた早い段階で全社リモートになる可能性を考慮して準備をし始めました。現在は完全に全社リモートに移行していますが、割とスムーズにいったほうではないかと思います。というのも、もともと青森や福岡に住みながらフルリモートで働いている人が何人もいたんですよ。新入社員対応や社会保険手続きで会社に行かざるを得ない場合を除いては、フルリモートにすんなり移行できました。

西内 今後もさまざまなスタートアップが出てくると思いますが、最初からデジタルトランスフォーメーションを意識している会社とそうではない会社で差がついていくだろうと感じますね。会社を立ち上げる初期の段階でデータ設計や働き方をなあなあにするのではなく、初めから会社の文化を意識して動いたほうがいいように思います。

加藤 そうですね。なかなか、たいへんなことも多いですけどね、セキュリティや個人情報保護などの対応はしっかりやりつつ、速度や生産性も落とさないやりかたを見つける必要があります。技術力も大事ですし、経営チームにも覚悟が必要です。そしておそらく、いちばん大事なのは、オープンさとクリエイティブをよしとする風土づくりじゃないですかね。みんながそういう意識を持ってやっていく必要があると思います。

西内 加藤さんはそれができる希有な人材だったからこそ、会社がうまくいったのではないかと思います。

加藤 そういうメンバーが集まってくれたからこそ、できたことですね。技術チームはたいへん優秀ですし、コーポレートチームには弁護士もいます。またCFOの鹿島は自分自身がかつて官僚でした。

西内 スーパーチームですね。

A/Bテストの結果は必ずしも正しいわけではない

加藤 今でもデータの活用については悩みが尽きません。データ活用をしていると、なんでも「A/B テストしてみよう」という話になりかねないんです。でも、A/Bテストが正しいかというとそうでもない時もありますよね。

西内 「局所最適」に陥りやすいというリスクはありますね。

加藤 たとえば、バナーのクリック率を上げたければ、大きく表示したり点滅させたりしたらおそらく上がるんです。でもそういうことは僕たちはしないようにしています。この辺の匙加減が非常に難しいですし、今でも試行錯誤しています。

西内 加藤さんが意思決定する立場にいるからこそですね。最悪なのは、管理職や経営者といった意思決定する立場にある人が意思決定をしないというパターンです。決定を先延ばしにして責任を取らないほうが出世しやすいという組織もあるんです。

加藤 終身雇用の会社だったら失敗しないほうがいいですもんね。

西内 そうした組織を見ていると、データドリブンに意思決定をしたほうがいいですし、データドリブンではないとしても、スピード感を持って意思決定をしていくべきだと思います。

加藤 社内の会議では、いつもバチバチと火花を散らしていて、周りの人が引くぐらいの真剣勝負をしていますよ。

西内 そういった場が会社の経営を支えてるんですね。データの使い方に正解はありませんが、「ベスト」ではなく、「ベター」な意思決定をするためにデータを使うのがよいと思います。

加藤 そうですよね。「まあまあいい手」を続けていくことが大事ですよね。

西内 「ベスト」を追い続けると何も決められず、意思決定までに10年かかってしまうことも起こりえます。それよりも、毎回「A案よりはB案のほうが少しだけよさそうだ」というふうに、打率を上げていけたらそれだけでいい。

加藤 そうですね。僕たちがもう1つ重視しているのは、致命的な下手を打たないことです。何か施策を打つ時には、これは不可逆なものかどうかということを気にして意思決定をしています。深津さんには、「謝れば済むことであれば、失敗したら加藤さんと僕で土下座しましょう」と言われるんですけどね(笑)

西内 意思決定者として責任を取るときに、土下座で済むのか倒産になるのかは大きな境目ですね。

加藤 データと意思決定、マインドと行動は全部セットですよね。

西内 データ活用ができている会社は、社長や専務といったトップの人たち自身がデータドリブンに意思決定をし、クイックに試し、間違っていたら頭を下げるということができています。データを扱うだけでなく、最終的に意思決定につなげていくということがもっと世の中に広まっていけばいいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

(了)

(まとめ・構成:プレーンテキスト 鹿野恵子/宮原智子)

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
加藤 貞顕(かとう さだあき)note株式会社 代表取締役CEO
1973年新潟県生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。ベストセラーを多数手がける。
2011年にピースオブケイク(現:note株式会社)を設立。2012年、コンテンツ配信サイト 「cakes」をリリース。2014年、メディアプラットフォーム 「note」をリリース。

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