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データ分析できる社員なくして採用活動はできない<源田泰之さん vol.2>

西内啓の対談シリーズ。「ソフトバンク」源田泰之さんの第2回目です。ソフトバンクではデータを活用した採用選考をいち早く開始。源田さんは「データ分析できる社員なくして採用活動はできない」と言います。(前の記事はこちらから
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社員の最適なキャリアを叶えるためにデータを活用

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西内 最近のSPIは認知機能だけでなく性格検査もできて、人と人との相性や職種ごとのパフォーマンスなどの指標になります。多くの会社では、せっかくとったSPIのデータを活用せずに破棄してしまっているそうなんです。しかし御社では、データを活用した採用選考をいち早くされていたんですね。

源田 はい。採用だけでなく社員の配置についてもデータを活用することができないか検討しています。

社員の配置についてはまず、事業計画に基づく人材戦略や人材の配置計画から、どの部署に人員を配置するかを決めていきます。そこにだれを配置するのか決定する際、最優先にしているのは、入社した人が「何をしたいか」です。モチベーション高く「やりたい」という人が該当部署に入ることが一番だと思います。次に配慮するのが、その人が「向いている」かどうかです。配置に関しては、データ活用だけで客観的に振り分けるのではなくて、できるだけ「人」が介在しながら補助ツールとして活用していくのが良いと考えています。

そして、営業のなかでもこの人は法人営業がいいのか、コンシューマ営業がいいのか、どちらが適しているかを考えるときにはじめて「ミツカリ」などのアセスメントツールを使います。

配置に関しては、調査の結果だけで客観的に振り分けるのではなくて、できるだけ「人」が介在しながら補助ツールとしてデータを活用している感じですね。そのうち逆転するのかもしれませんが、今はまだ補助的な役割です。

中長期で見ると、その人の成長というのは結果的に会社の成長にもなりますので、社員の納得感も含めてこうした使い方がいいのだろうと考えています。

西内 余談ですが、世の中には抽象的なことが得意な人と、具体的なことが得意な人がいて、私は抽象的なことが得意なタイプなのですが、具体的なことをしっかりできる人はそれはそれで素晴らしいわけです。

「具体的なことが得意」というタイプの人から「抽象的なことをやりたい」という相談を受けることがたびたびあるのですが、まず「具体的なことが得意」という自分の強みを伸ばしたほうがいいのではと感じます。

源田 若い人には「できることをまず伸ばす」というのがおすすめですね。能力は高いけれどもやりたいことしかしない、という人は、成長のチャンスを逃してしまい、やはりうまくいきません。一方で、指示された仕事だけしっかりやるというのも、それはそれでおもしろくない。

仕事というのは言われたことをただやるのではなく、その中で自分が成長したり、やりたいことを見つけて実現したりするための1つの手段だと思います。ですから、将来やりたいこと、今自分ができることを理解して、両方ともしっかり取り組むことが大切なのです。

仕事には「むだ」から生まれるひらめきや発想も重要

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西内 最近、自分の中で、ビジョンを持つこと、指示された仕事をすることの中間に「ちょっと楽しいことする」ことがテーマになっています。これは、非生産的なことが自分の技術力に生きているという実感がもとになっています。

源田 以前、ある会社のCOOが「一見むだな時間をどう過ごすか」という話をされていました。その方は社長と毎週水曜日に食事をしているのですが、必ず『笑っていいとも』方式でゲストを呼んで、その人に自分よりすごいと思う人を紹介してもらって次回のゲストとして招待していたそうです。

西内 おもしろいですね。

源田 もう1つ、図書館に行ってランダムな番号で本の検索して、何が出てもその本を読むということを実践されていました。一見そういうむだに思えることが実は仕事にもつながっているんだということが「確かにおもしろいな」と思いながら聞いていたことを思い出しました。

このあたりは孫正義育英財団のコンセプトに近いですね。財団のコンセプトも、ある分野の専門家の集まりなんです。年齢やジャンルに幅がある人たちが対話することでイノベーションが生まれるのだと思います。

西内 実際に、最近経営学者のあいだでも、組織の中にいかにインフォーマルなコミュニケーションを増やすかが重要なのではないかと言われています。会議を設定したり、仕事の業務連絡でメールのやり取りをしたりというフォーマルなやりとりだけでなく、一緒にコーヒーを飲んだり、コピー機の前で雑談したりといったインフォーマルなコミュニケーションが仕事には重要なのではないかという考え方です。

この話に関して、「特許の引用に距離的な制約がある」という面白い研究があります。例えばシリコンバレーで生まれた特許は一般に公開されているので、東海岸から引用しようが中国から引用しようが、やろうと思えばできるんですが、シリコンバレーの特許を一番引用しているのはシリコンバレーなのだそうです。

これはおそらく、シリコンバレーで「うちでこういう技術を作ったんだよ」「こんな技術があるんだよ」といった雑談が行われているから引用が生まれるのであって、そうした雑談ができる距離でなければアイデアは広がっていかないのではないかという仮説です。

源田 自分の経験からいうと、メガジョッキのハイボールを5杯ぐらい飲んだらだいたいみんな友だちになるじゃないですか(笑)。会議の中でこの関係性を作るには10倍ぐらい時間がかかると思いますね。

新型コロナウイルスの影響でリモートワークが進みましたが、検証した結果、タスク確認といった種類の単純な仕事はオンライン化されるとそれまでの80%ぐらいの時間で完結してしまうようです。

それは一見効率的にみえるので、オンラインは効率的でいいよねという話になりがちですが、「むだ」から生まれるひらめきや発想、チームへの帰属意識や会社へのロイヤリティといった側面も重要ではないかと思います。

西内 すでに人間関係ができている状態でオンライン化されるのと、ゼロから人間関係を作らなければいけないオンラインも違いがあるのではないかという気がします。

源田 おっしゃるとおりですね。

採用はデータ分析ができる社員がいなければ成り立たない

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西内 少し話は変わりますが、御社が人事の中でデータ分析されるとき、Excelを使って分析されるスタッフが多いなという印象を受けています。Excel研修の制度などはあるのでしょうか。

源田 社内の講師が「ソフトバンクユニバーシティ」でAccessやExcelを教えていますが、研修はあくまで任意ですね。

採用チームとしては、これまではとにかく対人が強くて学生に向き合っていけるような人材を配置していました。しかし、チームとして捉えるとデータ分析ができる人もほしいということで、現在は意識してデータ分析ができる人材を配置しています。

もう異動してしまったのですが、人事部にいたAさんという社員がいて、この人がものすごくデータ分析が得意だったんです。入社前のデータから、どんなキャリアを歩んできたら入社後に活躍するのか、ファーストキャリアの適材適所はどこか、採用選考の見える化などすべて分析して、月に一度報告してくれたのです。

そして今では、3年ほど前にリリースされたIBMのWatsonAIを使ってエントリーシートを分析しています。彼女が異動してからは、意識してそうしたデータ分析できる人を入れていますね。とにかく分析ができる人がいなければ成り立ちません。

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
源田 泰之(げんだ やすゆき)ソフトバンク 人事総務統括 人事本部 副本部長 兼 採用・人材開発統括部 統括部長 兼 グループ人事統括室 室長 兼 未来人材推進室 室長

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