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「データ経営でブルーオーシャンから新業態に漕ぎ出す」ワークマン 土屋哲雄氏×西内啓対談 Vol.1

データビークルの西内啓がデータ活用で成果をあげている組織のキーパーソンとデータサイエンスの現実について語り合う対談シリーズ。今回は、新業態「ワークマンプラス」を展開し波に乗る、「ワークマン」の専務取締役 土屋哲雄さん、スーパーバイズ部 長谷川誠さんが登場します。第1回目は、「データ経営における人材育成」について、お話をうかがいました。

データ経営でブルーオーシャンから新業態に漕ぎ出す

西内 まずは御社の事業について教えてください。

土屋 私どもは39年間、作業服を一途に販売してきました。実はこの業界は他に競合がおらず、ブルーオーシャンなんです。

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弊社は現在855店舗あって、業界2位が約50店舗、3位が約40店舗と、2位以下を大きく引き離しているんですよ。ニッチのトップだからこそいろいろなことに挑戦することができますし、「残業するぐらいなら明日に残そう」という文化でいることができます。

作業服市場は約4,000億円弱のマーケットで、6割が法人、4割が個人という内訳です。弊社は個人を対象としていますので、1,000億円近くの売上になると成長限界が来ます。そこで「1日中外にいる」「機能性が要求される」など作業服と共通の特徴を持ったアウトドアウェアに進出することにしました。

しかし、弊社にはアウトドアの知識がまったくありませんでしたので、新業態へ進出するに伴い、データ経営を取り入れることになったのです。それが6年ほど前のことです。

西内 アウトドアという新業態に進出しようという意思決定が先にあって、実際どうやるかというところでデータ経営を取り入れることになったのですね。

土屋 ニッチな業界ではお山の大将でいられても、他の業界に行けば必ず負けると考えたのです。それまで価格競争すらしたことがありませんでしたからね。負けないように舵取りできるよう、データ経営を取り入れました。

西内 6年前にデータ経営を取り入れることになって、システムや人材育成などはどのように整備されてきたのですか。

土屋 浅く広く、全体を底上げしてデータに基づく決定ができる会社を目指しました。弊社は作業服は39年間やってきていますので、その知識は入社年齢に比例します。入社10年目の社員は勤続30年の社員には逆立ちしても勝てないわけです。これからはそういう文化を一新して、改革マインドとデータ経営で知恵を集める経営にしたいと考えたのです。

新業態を上司の間違った常識で潰されては困るので、この数字は一つの店舗だけに当てはまることなのか、地域なのか、全国なのか、実験をする。その結果によって地域や全国の標準を変革するのがマネージャーの役割だというふうに文化を変えてきました。

ステージごとの研修でデータに関する知識の底上げを目指す

西内 多くの会社がそれで苦労をされていますが、御社がそうした文化を変えることができたコツはどのようなところにあったのでしょうか。

土屋 コツは、「アメとムチ」ですね(笑)。

「アメ」は、業態変革に伴い賃上げをコミットしました。新しい業態にシフトすると今までの知識や経験がリセットされますので、全体の賃金の水準を5年で100万円上げることにしたのです。一方の「ムチ」としては研修を取り入れました。

長谷川 新業態への移行に伴い、社内にはITに精通している社員がいなかったので、新入社員を中心に教育をしました。

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社員は入社から2年ほど店舗で店長を経験するのですが、その2年の間にまずデータ分析の講習を2回実施します。店長の次は店舗活性部で店舗の改装や新店の立ち上げに携わるのですが、その期間に1回研修を受講します。

次にスーパーバイズ部という営業職に上がってから1回。新入社員として入社してから3〜4年かけて計4回の講習を受けます。今まではそれで終わっていたのですが、幹部になる頃には忘れてしまいますので、係長以上、チーフやマネージャーなど幹部向けに毎年講習をして、データに関する知識の底上げと維持を行っています。

西内 店長向けの講習は、FCの店長も受けるのでしょうか。

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長谷川 弊社では直営店と加盟店2つのタイプがありまして、直営店には本社の社員が入ります。店長講習は直営店の社員向けに行っています。

土屋 新規店舗はまず直営店として開店し、売上が上がったらFC加盟店に渡すんです。その1年目、2年目に本社の社員が店長をつとめるのですが、その間業績管理はまったくしないんですよ。普通なら店舗を経営している以上業績を見るものですが、個々の能力が伸びるほうが重要だということで、売上は見ていません。よく言えば「トレーニングストア」ですね。

西内 業績管理はせず、能力を伸ばすための教育として店長を経験されるんですね。

土屋 はい。商品知識や接客など、個々の能力は見ています。もうひとつ、小売専門のBIツール(※)を導入したのですが、導入の2年2ヶ月前からデータベース研修を始めました。BIの利用方法には定型分析と非定型分析とがありますが、重要なのは非定型分析です。ですから、研修では非定型分析をエクセルに落として、エクセルのマクロでレポートを作るというところまでやります。ここまでデータ分析の研修をする小売業は意外と少ないのではないでしょうか。

※BIツール
ビジネス・インテリジェンスツールの略。企業が持っている膨大なデータを分析し、経営の意思決定をサポートするツール。

フォローアップを取り入れ組織の中核人材を生む

土屋 データベース研修とは別に、もう1つのアクティビティで業務時間内に勉強会をやりました。全体研修で理解できていなさそうな人を集めて、月一回自分の業務に関わる分析をして発表するんです。私は基本的にけなす役なんですが、そこは絶対けなしちゃだめだぞと、ほめて伸ばす方針を取りました。前述したスーパーバイズ部やロジスティクス部、商品部で実施しています。

商品部では、例えば、M・L・LLそれぞれどれくらい生産するかといったサイズの配分を研究したりしました。今までは商品が作業服でしたから体が大きい人が多く、一般の人よりも1サイズ上がちょうどいいんですね。ところが、一般客向けの商品を始めましたので、1サイズ下がるわけです。ですから、一般客の比率を予測して体のサイズを予測しなければ、商品が余ってしまいます。この勉強会には社長も参加しましたが、商品部の全員が6回講座して卒業できるようにしました。

その次は、生産管理勉強会を1年ほど開催しました。商品を納期通りに生産させて仕入れるまでをどう工夫するかというテーマです。3つの部署で勉強会をやって、分析チームを作り、その中で業務改善をしていきました。それで大体一巡ですね。SV部は若い社員を育てないといけないということで月に1回勉強会をし、そこからの卒業生が製品部へ行ったりとか、ロジスティクス部へ行ったりしました。

西内 各部署に6年間勤務していると中核人材となる方も出てくるのではないでしょうか。

土屋 はい。弊社では目標とする人材像がいくつかあります。

まずコミュニケーション能力は全員に必要ですので店舗研修をします。そのあとデータ活用研修があって、その後はアパレルですのでデザインに行く人と、データツールを作れる人の2つに分かれます。

そこで、データを活用する人が8割、ちょっとしたマクロを組むといったエクセルレベルでいいのでデータツールを作れる人を2割にしようという目標を置いています。今はデータツールを作れる人が全体の15%ぐらいまで増えていますね。その体制で新業態に臨みたいと考えています。

我々が新業態として開発したワークマンプラスという店舗は作業服と一般客の比率が半分ずつになっています。これを新店で出店しようとすると、初期投資に4,000〜5,000万円かかるのですが、既存店を全面改装すると2,000万円で済みます。

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全面改装と部分改装ではどちらがより成果が高いか、周りの人口や自店競合、駐車場の台数から、それぞれの客層しか買わないような製品の売上比率など、いくつかの要素があって来季の経営計画を立てています。出店で当たれば2倍ぐらい売上が増えますね。

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
土屋哲雄(つちやてつお)東大経済学部卒、三井物産株式会社入社。海外留学、三井物産デジタル社長、本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理。三井情報株式会社取締役。株式会社ワークマン常務取締役経営企画・IT・ロジ担当(現任)。
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「データサイエンスをみんなの手に。」を目標に掲げるデータビークルのオウンドメディア。「シティズンデータサイエンス」とは、統計学の専門家ではない一般の人々が、ツールを活用して手軽にデータを活用すること。豊富な実践事例や読み物で、データ分析の世界をより身近なものにします。