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「データ分析の結果を社会に還元できる仕組みづくりを」日本経済新聞社 山内秀樹氏×西内啓対談 Vol.3

西内啓の対談シリーズ。日本経済新聞社の山内秀樹さんの第3回目です。データ分析の結果を社会に還元することを目標に掲げる山内さんは、近頃統計学への世間の関心の高まりを感じると言います。

メディアだからこそ思想的なことが言いやすかった

西内 日本経済新聞社さんの「強み」はどのようなところでしょうか?

山内 われわれの一番の強みは何かと言われたら、日経IDをつくったことが大きかったのではないかと思います。顧客を特定し、どうタッチポイントをつくっていくかというコンセプトが大切で、それがブレなければデータ分析がちゃんとできます。

もう一つ重要なことは、データ分析がそもそもメディアとの親和性が高かったということが言えます。新聞記者はいい記事を書かなければいけなくて、売り上げのことは考えていません。一方で、新聞を売らなければならない人もいるわけです。その人たちをつなぐキーワードとしてミッションがある。そこを分解したのでデータサイエンスをやりやすかったんですね。

そして、先ほど申し上げたオーディエンスエンゲージメントです。直近8日間に優良会員が何日サイトを訪れたかを分析すると、毎日サイトを訪問している人が相当数いらっしゃるんですね。これは習慣化ができているからです。では、徹頭徹尾サイトを訪れてもらうにはどうすればいいかと言うと、日経を使っていない時間にどう意識してもらうかを考えます。そうすると、SNSの運用にもポジティブになりますし、日経のサイトを訪れている時の価値を最大化するために、アクセス数よりもコンテンツの質を大切にするというところにつながります。これが社内で理解されやすかったんですね。

メディアだからこそ結構青臭い思想的なことが言いやすくて、正しいデータを集めて、正しいデータ分析をしていたら、結果的に全部つながりました。

もう1つは、最初からデータ分析をしようと思ったというよりは、自分たちがどうあるべきかということが先にあったのも強みだと思っています。それがなかったら、結果もついてこなかったかも知れません。

新聞製作システムをデジタル化した日経

西内 データの統合はどのようにされたのですか?

山内 まず、日経の中でバラバラのIDを使っていてはだめだということで、最初にそのビジネスをやる人全員にIDを取らせますと大きな目標を掲げました。データを私蔵していたらビジネスにつながらないので、すべて統合しますと宣言したんです。いまだにやり切れていませんが、思想を掲げ、パッションを持ってとにかく進めています。

西内 裏側の話なのでお話いただける範囲でいいのですが、それぞれの記事にはたとえばジャンル分けのように構造化した仕組みなどがあるのですか?

山内 あります。これはわれわれの大きな強みでもあります。新聞製作システムをデジタル化したのは日経がいちばん最初なんです。もともとITに投資をする会社だったのと、われわれは情報商社であるという認識があって、コンテンツをデータベース化しなければいけないという意識が強いのです。新聞メディアというのを超えて、日本の中でも一番データの所有数が多い会社の一つだと思いますね。

いわゆるアクセスデータと顧客データだけでなく、記事データや日経平均株価のような数値データも自分たちでつくって算出していて、もともとそういう文化があったので、インターネットが普及する前から記事データをメタ情報としてシソーラス化するといったことは割と昔から普通に取り組んでいるテーマです。

日経テレコンというサービスでは、旧くは専用端末でオンライン記事配信をしていましたが、当時から書誌データとして検索しやすいキーワードを人力でつけていました。今でもその流れを汲んで、コンテンツマネジメントシステムではデータ再利用を前提にさまざまなキーワードや著作権情報をつけています。

西内 それはとてもラッキーですね。

山内 株価など数値のデータも全部コードで管理できます。会社のデータでもコード体系が決まっていて、データになっているんですよ。

西内 会社コードが揃っているのは大きいですね。

山内 日経ではこれも旧くから『日経会社情報』という本を出していたのもあって、以前から証券データと記事を紐づけてコンテンツにしているので、コードが昔から整理されているんです。証券コードだけでなく、日経会社コードといって、非上場の会社まで4万社ほどのコードをストックしています。

西内 たとえば細かい会社や証券市場の動きから、どの企業に関する記事がバズるのかという解析を、やろうと思えばできるわけですね。

山内 ポテンシャルはあります。その辺りはコード体系として管理されていますが、私蔵されているデータもあるので、社内データの再発掘が課題となっています。データをワンプラットフォームにしてみんなで活用するというところは、目標の1つとしてあります。社内のデータドリブン文化がひと段落したら、これを使った社会貢献ということも考えていくフェーズに入るんだと思いますね。

データ分析の結果を社会に還元できる仕組みづくりを

西内 とても楽しみです。今後、こういうことをやっていきたいというビジョンなどはありますか?

山内 まだまだ道半ばなんですよ。自分たちのコンテンツがどう読まれ、自分たちのサービスがどう使われているかを理解して、やっとそこに手を打つことができるようになってきました。社内の意識も高まってきて、今後はそうした人材も増えていくでしょう。しかし、最終形として考えたときに、データドリブンの段階でもまだまだ足りていないところがあります。

たとえば、データから分かることを社会に還元する仕組みができていません。そのためにはジャーナリズムにデータを使っていかなければと思っていますので、オーディエンスエンゲージメントに合わせたコンテンツの配信や社会への拡散の方法を編集者が学ぶ必要があります。顧客ファーストでデジタルファースト。その顧客との接点が電子版だけでなく、また新聞だけでもない、あらゆる場面に接点をおいて、社会に役立つ仕組みをつくりたいですね。

それを実現するために、全員がデータドリブンでなければいけないと思いますし、記者も、コンテンツやプロダクトをつくる人も、ひとりひとりが発信していかなければならないと思うので、そのためのデータをつくっていくのが目標ですね。

西内 記事を書く側でデータジャーナリズムについてのトレーニングなどはされているのですか?

山内 はい。勉強会を開き、専門チームをつくるところまではきています。社全体をあげてデータ活用にフォーカスを当てていきたいと思っていますが、まだ自分の手でデータ分析をするというところまで至っていないのが現状です。今後は社会課題をデータで取り出して、自分たちで能動的に分析していくというところまでいけたらと思っています。

西内 実現すれば、日本人全体の統計リテラシーがどんどん上がっていきますね。

山内 そう思いますね。先日、うちのコメンテーターが「日本の部長よデータを学べ」というコラムを書いたのですが、データ分析に対する意識の高まりがはっきりアクセス数に表れていました。昨年までデータ系の記事はIT系の人しか読まなかったのですが、今年に入って世の中の関心が高まり、アクセス数がものすごく伸びましたね。社内でも、データに関する記事への関心の高まりを認識しています。

西内 これからも、情報のトップリーダーとしての発信を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。

山内秀樹(やまうちひでき) 日本経済新聞社 編集局総合編集センター 部次長 兼 デジタル事業 デジタル編成ユニット 部次長
2000年日本経済新聞社入社。主にデジタル分野でのメディア立ち上げや運営に従事し、2010年の電子版創刊からはデータマーケティングの中心人物として、日経電子版の会員基盤である「日経ID」の企画・開発に携わるとともに、顧客データの分析やデータドリブンの普及活動を推進。メディアにおけるデータ活用やオーディエンスエンゲージメントの向上に取り組んでいる。今年4月より現職。

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