第7回 アウトカムを設定するコツ(1)
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。
よいアウトカムとは何か
アウトカムと解析単位という2点が適切に定まれば、「どこから手をつけていいかわからない」という問題も、「出てきた結果がナンセンス」という問題も回避することができます。これがデータを使って「よいリサーチクエスチョンを考えることができた」という状態です。
とはいえ、慣れないうちはそれが「よいアウトカム」なのかどうか、自信を持って判断するのは難しいかもしれません。そこで次に、よいアウトカムを定めるためのいくつかの考え方について学んでいきましょう。
ビジネスにおけるよいアウトカムとは次の3つを満たすものということができます。
①自社の長期的な利益に確実に寄与する
②そのアウトカムによるマネジメントでズルがしにくい
③そのアウトカムの値が同じならどんな状況でもうれしさは同じ
これらは「3つ」とはいいながら、同じことを、違う言葉で表現したものになります。それぞれについて見てみましょう。
長期的な利益に確実に寄与するか
とりあえず長期的かどうかはさておき、利益に関係するものがよいアウトカムだと知っていれば、膨大なデータの「どのあたりに注目したらよいのか」という迷いは晴れます。データの中からアウトカムの目星をつけるために最初におこなうべきことは、「何円」「何ドル」といった単位で入力されているデータがあるかないかのチェックです。
ビジネスの中で、このような通貨の単位で入力されているデータというのは、基本的に売上かコストに関係していることがほとんどでしょう。この両者の差が利益である、と考えられるので、このあたりから「利益が大きいか小さいか」「売上が高いか低いか」「コストが高いか低いか」といった違いを見つけられる可能性があります。
マーケティングや営業系の領域であれば、粗利か売上か、という形でこのように確認するだけでいったん最初の目星がつきます。製造や物流の領域ではそこまで話が単純ではありません。この領域では、自分たちで直接的に売上に関わらず、使えるデータの中にお金に関わる項目が含まれていないこともしばしばです。
こうした場合におすすめなのは「日常的に存在する大きなコスト要因」が何かと考える方法です。たとえば材料や仕掛かりを破棄することになってしまうとか、設備が故障し手待ちが生じてしまうことはないでしょうか?あるいは、入荷や出荷の物流ミスで機会損失になってしまってはいないでしょうか?また、売上に対して過剰に製造してしまい、倉庫のコストが余計にかかったり、キャッシュフローが圧迫されたりはしないでしょうか?
「原材料を破棄することになる日とそうでない日」の違いが正確にわかれば、オペレーションを一部変更して、対策したり仕入れを絞ったりすることができます。
大まかな目安ですが、製造でも物流でも、データがきちんと活用されてこなかった分野に挑戦すると、そこから比較的短期間で数%程度のコストダウン方法が見つかるのはそれほど珍しいことではありません。つまり「あまり注意していなかったけれども、原材料の破棄で年間およそ数十億円のコストがかかっている」という状況なら数千万円のコスト削減方法が見つかる可能性があるということです。
ただし、いくらコスト自体が大きくても「日常的に存在する」ものでなければ、データによっては解決しにくい問題となります。生産拠点が災害に見舞われ、工場が倒壊したり、水没したりした場合の被害は甚大ですが、数年〜数十年に一回起こるかどうかという状況の防止や予測には、残念ながらデータはそれほど力を発揮できません。
また日本企業ではすでにいきわたり、成果が出にくいアウトカムとして、「ある程度枯れた製品」の「歩留まりをあげる」というものがあります。伝統的に統計的品質管理という考え方が根付く日本の生産現場では、戦後からこうしたテーマでの改善活動がやられてきました。それゆえに、IoTを応用して製造の現場でデータ活用しよう、という話になったときに多くの人がまず品質の向上を思いつきます。
「ある程度枯れた製品」の歩留まりがどの程度かといえば、その単位はppm(parts per million)すなわち、100万個中に不良品がいくつかあるかないかという水準に達していることも珍しくありません。月産100万個の製品の不良率が4ppmであったとして、それを半減させるアイデアをデータから見つけることはたいへんな困難ですが、達成したときに得られる成果は「月に2個だけ不良品が減る」というようなものです。社会的責任はあるにせよ、データ分析のためにかけるコストを上回るほどのビジネスメリットは得にくいかもしれません。