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みんなによく手を洗ってもらうためにはどうすればいいのか?行動科学とデータ分析から考えてみた(第4回)

シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

前回、皆さまから実際に得られたデータを分析した結果、「みんなにもっとマメに手を洗ってもらう」という目的を達成する上で以下のような方向性が見えてきました。

1)自宅で1人でいる時でも手を洗おうと思ってもらう
2)「人がどう思うか」というような規範意識への訴求は避ける
3)目に見える汚れがなくても手を洗おうと思ってもらう
4)手洗いはエチケットとして重要だと思ってもらう

最終回となる今回は、その方向性から導き出された私たちなりの「もっと手を洗ってもらう」ためのアイデアを紹介します。

「違い」を望ましい方向へ変化させるためのプロトタイプ

私たちの考えるデータ分析とは「望ましい状態とそうでない状態の間にどんな違いがあるか」を見つける作業です。今回で言えば「マメによく手を洗う」という望ましい状態にある人と、そうでない人の違いを探しました。そして、上記の4点に関わる項目については「偶然とは考えにくいレベルで違っていると考えられる」という示唆が得られたわけです。

ではこのような「違い」から取るべきアクションをどのように考えればよいのでしょうか?

データ分析の結果を活かす上で最初に検討した方がいいのは、その「違い」をより望ましい方向へ変化させることができないのか?と知恵を絞ることです。

例えば「自宅で1人でいる時でも手を洗おうと思う」人がよく手を洗っている傾向にあるのであれば、今までそう思ってなかった人が、新たにそう思えるように「変わる」ためにはどうしたらいいのでしょうか?

そのようなときには、とにかくあの手この手でたくさんプロトタイプを作って、行動を変えて欲しい人たちに見てもらいましょう。今回で言えば「自宅で1人でいる時に手を洗う意味なんてマジでわからない」という知人に見せたときに刺さるものは何かを探索していくわけです。

そしてプロトタイプをたくさん作るためには、できるだけ1つあたりの手間を最小限なものにしておかなければいけません。『リーンスタートアップ』という名著で、新しい事業や製品を考えるときにまずMVP(Minimum Viable Product:日本語に訳すなら最低限実行可能な製品、というところでしょうか)を作れと教えてくれますが、私たちもMinimum Visible Productつまり「最低限目で見えるもの」をたくさん作ることをおすすめしています。

百聞は一見にしかずということわざもありますし、人間の知覚に占める視覚情報の割合は8割なんていう話を聞いたりもします。言葉で色々と議論するよりも、何かしら視覚的に「こんな感じ」と見せた方が「良さそうかどうか」は判断しやすいでしょう。

より具体的に言えば、「適切な画像」と「呼びかけたい端的な言葉」をセットにしたスライドぐらいならだれでもすぐに作ることができるはずです。

ここで一体相手に何を見せれば良いのでしょうか?

作戦として考えられるのは2つの方向性です。1つは「コミュニケーションの対象者が望ましい状態になった時に得られるであろうハッピーな状態」を見せてあげることです。そしてもう1つ、「望ましい状態の人には見えている(視覚的に想像つく)一方で、望ましくない状態の人にはまだイメージしづらいこと」を見せてあげるという方法もあります。もちろんこの両者を兼ね備えたものであればなお好ましいでしょう。

そんなわけで私たちは分析結果から得られた4つの方向性に基づき、たくさんプロトタイプを作って「ずっと家にいるのに手を洗う意味とかマジわからない」「泥とかついてるわけでもないのに手を洗う意味マジわからない」という知人に見てもらいました。

その結果、その方が珍しく「ええ!」と反応したものがこちらの画像。

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(画像は東京ベイ・浦安市川医療センターから特別にお借りしました)

(ちなみにこの「4日」という期間は最近学術誌に掲載されたこちらの論文に由来しています)

この画像とテキストの優れた点は、汚れた手で触ったドアノブには驚くほど多くのウイルスが付着しているということを可視化することによって、「自宅で一人でいるときでも」「目に見える汚れがなくても」、手を洗うことは重要であるという気づきを見る人に与え、かつ「人がどう思おうが」「手を洗うことはエチケット」だと自然に感じさせる点にあります。

良さそうな案を見つけて次のステップにつなげる

マメに手を洗う側の人間である西内は「ずっと在宅とはいえ、スーパーに買い物に行くことはあるし、宅配便の荷物を受け取ったり、ゴミ出しもする。いつどこで何を触ったかとかいちいち覚えてないから、うっかりどこかでウイルスをつけちゃった手でドアノブぐらい触ることぐらいあるんじゃない?」と言っています。

「ステンレスやプラスチックの上で4日」という具体的な期間こそ最近の報告に基づいていますが、1日~7日ほどの間ウィルスが感染性を維持することは大いに考えられるそうで、そこから出てきた案の1つがこの画像でした。

「ずっと家にいても当然手は洗うでしょ」「目についた汚れがなくてもウィルスがいる可能性はあるでしょ」という、分析結果上望ましい側の人間には上記の画像のような状況が視覚的に想像できますし、手に蛍光塗料を塗って「見えない手の痕跡を可視化する」という試みはしばしば行われます。

今回はたまたま西内の知人が勤めておられた東京ベイ・浦安市川医療センターの皆さまが、以前に感染症予防に関わる手洗いの重要性を啓発している記事を公開されていたため、今回特別にこの記事のために画像をお借りすることができました。本当にたいへんな状況であるなか、迅速にご対応頂いた東京ベイの皆さまにはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

実際のビジネスにおいても、このように「良さそうな案」を見つけることができれば、それをもとに正式にリーフレットやポスターを制作したり、あるいは動画を撮影したり…といったことが次のステップになりますが、残念ながら私たちはまだ今回の件についてそこまでの社会貢献をさせて頂けるような体力がある会社ではありません。

ただ、きちんと行動科学の理論に基づく調査を行い、データを分析することによって、スジの良さそうなコミュニケーションの方向性を明らかにできるということは、この連載を通じて皆さまにお伝えできたのではないかと思います。

皆さまも今回の分析結果から示唆された

1)自宅で1人でいる時でも手を洗おうと思ってもらう
2)「人がどう思うか」というような規範意識への訴求は避ける
3)目に見える汚れがなくても手を洗おうと思ってもらう
4)手洗いはエチケットとして重要だと思ってもらう

という方向性から、どのような言葉、あるいはどのようなクリエイティブを使えばみんなもっと手を洗うようになるのか、ぜひ考えてみて下さい。

今回の事態を乗り越えたあとも、新しい感染症が流行する事態は十分考えられますし、きっとその時も「手を洗う」ということが重要であることに変わりはないはずです。


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