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第16回 AI開発における適切な課題設定とは(1)

省力化に着目したAIの課題設定

「予測精度の改善価値」にフォーカスする予測モデルについては「現状の1.05倍の精度で予測してどの程度のコスト削減効果があるか」と考えればよいことを学びました。また「データを収集したような状態」がどれだけ安定的に続くかというのも重要なポイントです。

では、もう一つの機械学習の使い方である、(多少人間より精度が低くてもよいので)自動化/省力化することを価値とするAIについてはどのように課題設定をしたらよいでしょうか?AIすなわち人工知能が「人間の認知活動を機械に代替させるもの」である以上、アイデア出しのために次のような穴埋め問題を考えてみましょう。

○○(人間の行う認知活動)とは
××の有限な選択肢/組み合わせのうち
最適なものを選んでいるに過ぎない。

○○のところに会社の中での業務を入れれば、それはBtoB向けのAI製品/サービスあるいは社内用のAIツールになります。○○のところに家事や趣味のサポートといったものを入れれば、BtoC向けのAI製品/サービスとなります。

ロゴデザインを行うAIを提供する会社はいくつもありますが、それは「ロゴデザインとは、フォント、アイコンおよびそれらのレイアウトの組み合わせのうち最適なものを選んでいる」だけだからと考えるから実現できています。

AIが相性のよい相手(異性や求職者)を紹介してくれる、というサービスもいくつもありますが、これも「紹介とは登録される人間のうち最適なものを選んでいる」だけだからです。「AIが夕飯の献立を考えてくれる」というのも「献立を考えるとは登録されたレシピの組み合わせのうち最適なものを選んでいる」からできることです。

もちろん厳密にいえば、一流のデザイナーはロゴに使うフォント自体に手を加えることがよくあります。同じ人を紹介するにしても「その人のどういう側面をどう説明するか」によって魅力が伝わるかどうかが変わります。献立についても、相手によって既存のレシピから少し材料や調理方法をアレンジした方がよい、という状況もあるでしょう。

しかし「人間より多少精度が下がっても省力化に価値がある」のだとすれば、こうした割り切りこそが現実的なAI開発の第一歩となります。次にこの「最適な」の基準として、どのようなデータを使うかというところだけを言語化できれば、少なくとも機械学習の技術者とコミュニケーションを始めることができます。「それがユーザーに採用されるか」という確率かもしれませんし、5段階評価で満足度を聞いてもよいでしょう。あるいは人間が行った判断とどの程度一致するか、という考え方もできます。

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何でもかんでもAIにすればビジネスとして成立する、というわけではありません。そうであれば、私たちに「マネタイズがまったくうまくいかないAI」の相談がこれほど多く寄せられるはずはないのです。私たちが過去にさまざまな失敗例を見た限り、すでに述べたものも含めて、次のような5点に着目すればこのようなリスクは最低限、避けられるはずです。(図表3-1)

AIに解決させる課題の総負荷量とは

AIで省力化するからには、その課題の総負荷量が大事であるという話をしました。総負荷量とは具体的にいうと、「世界中でどれだけの人が、何時間くらい煩わされているか」ということです。ごくわずかな専門家が、年間数時間程度、会議で話し合ったことがある、というようなテーマであれば、それを代替してくれるAIを作ったとしても大きなお金は生まれません。

また、数多くの人間が長時間頭を使っていたとしても、自ら望んで楽しい思いをしていることであれば、やはり「AIに任せて、やらなくていいから」といわれても、それにお金を払うことはありません。囲碁や将棋を楽しむ人たちに、「AIに任せればいいから明日から囲碁や将棋のことを考えなくてもいいですよ」と呼びかけても、誰もわざわざお金を払ってAIを使うことはありません。

BtoB向けのAIとしては、大会社の中にほぼ毎日のように存在して、多くの人が一度くらいは経験して、誰もその仕事に愛着を感じるわけでもない、というような業務があればそれは理想的なものでしょう。

ほとんどすべての小売店にはレジを打つ仕事や、商品を棚に並べる仕事が存在しています。多くのオフィスでは、経費精算の申請や確認、飲み会をアレンジするとか、ゴミを分別して捨てるとか、社内外の誰かにお願いしたタスクが放置されていないかリマインドするといった仕事があります。

こうしたビジネスの現場で使うAIを考える際には、「自分たちの会社の中でどの程度の人数・時間がかかっているか」と考えるのも1つの方法ですが、それだと圧倒的に総負荷量に制限がかかってしまうことになりがちです。たとえばある企業で働く千人の作業を省力化するAIを作る手間と、同じ業界で同じように働く1千万人の作業を省力化するAIを作る手間を比べた際に、後者に1万倍の手間がかかるということはありません。高々数倍というのがいいところでしょう。少なくとも後者の方が1000倍以上高いROIを示すことになります。

つまり、AIを活用しようというのであれば「自社の中での効率化のために」などというみみっちいことを考えていては損です。日本国内の同業者内では使ってもらえるとか、可能であればより広範に「同じようなすべてのオフィス」「同じようなすべての小売店舗」「同じようなすべての工場」といった範囲でより大きな総負荷量を解決する製品化を目指せないかを検討してみましょう。

これはBtoC向けに製品やサービスを考える上でも、同じことがいえます。ニッチな趣味の一瞬を切り取ったものなどではなく、多くの人が毎日、毎週のようにそこそこの時間「面倒くさい」と感じるような課題こそ、AIで解決すれば大きな市場が見込まれます。極端な例を挙げれば、掃除や洗濯、食器洗いといった家事をAIで今より大きく省力化することに成功した人はきっと大富豪になれることでしょう。あるいは「消費者自身がやっていること」でなく、「消費者に対して人間が提供しているサービス」のうち大きな市場を狙うという考え方もあります。家電製品を買うときの相談に乗ってくれたり、要望を伝えれば好みのワインを選んでくれたり、英会話を教えてくれたり、というサービスのお世話になった人は数多くいることでしょう。こうしたサービスもAIで代替することができれば多くの価値につながります。


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