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第20回 社内政治を乗り越えろ(1)

シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

実はここまでで、まだ道半ば

ここまで、皆さんは、データを整備し、分析や予測、AIの開発といったデータの活用の仕方を学んできました。本書の内容を活かせば「どこから手をつけていいかわからない」とか「何をしたらいいかわからない」という状態から抜け出る、最初の一歩を踏み出すことができるはずです。また、ナンセンスな分析しか得られない、お金を払う人のいないAIを作ってしまうというリスクも避けられるはずです。


しかしここまでの話はデータ活用全体でいえば「ようやく道半ばまで来たところ」です。本書序章で示した次図をもう1度確認してみましょう。

まずデータ自体がきちんと整備され、活用できるように加工しなければならない、という話をしました。これが第1章の内容です。適切な手法を用いて、分析したり予測したり、最適化するようなことができていなければならない、というのが第2章と3章の内容でした。この後には、適切な意志決定をして、現場が実際に動き、その結果どの程度の利益につながったのかというデータを取って、分析しなければなりません。


そうすることで「すごく効果が大きかったから、大々的に予算をつけよう」、「効果が大かったのは一部の顧客だけだったので、ここにリソースを集中させよう」、「思ったより効果が出なかったので、別の方法を考えよう」などの、次の意志決定ができるようになります。


こうしたサイクルを回し続けられる組織は、データから価値を生み出し、その価値を再投資して、さらに大きな価値を生み出すことができます。データを活かせない会社は、このサイクルがどこかで止まってしまっています。
(図表0-1)

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実際、多くの日本企業において、データ活用のボトルネックとなっているのは、この「意志決定」というフェーズにあります。たとえばこれを活かせば何億円も儲かりそう、という分析結果が出ながら「顧客への理解が深まりました」というだけで新しいアクションを採らない企業もあります。数億円分のコスト削減につながるような正確な予測モデルが得られたとしても「慎重に議論しよう」というだけで、何らオペレーションに採りいれない企業もあります。多くの人の悩みを解決するような素晴らしいAIの試作品を前にして、「検討しよう」というだけで製品化のための予算を出さない場合もあります。

このデータサイエンス入門講座の締めくくりとして、こうした意志決定の問題にどう対処するか、という私たちのノウハウを共有したいと思います。

データ活用は「よいボス」から

ではこのような、何を前にしても新しいことを意志決定しようとしない方々に、私たちはどう対処すべきなのでしょうか?答えは「避ける」です。もう少し正確にいうと「データとロジックに基づいて新しいことを意志決定できる人を探してそっちを優先する」です。


実際のところ、私たちは多くの会社のさまざまな人を観察してきましたが、こうした意志決定には向き不向きがあるとしか思えません。何が難しいのかを言語化すると、「一度も見たことのないもの」をイメージして、それを実現するということなのかもしれません。

たとえばデータ分析の結果、わかることは、今まで見えていなかったヒットする商品の特徴や、優良顧客の特徴、優秀な社員の特徴などです。これをうまく「変える」、「ずらす」という方向で活かせば、どのような商品を作り、どのようにプロモーションし、どのような販路を開拓すればもっと儲かりそうか、ということがわかります。あるいはどのような人をどう採用して、どう育成すれば生産性が上がるのか、といったこともわかるかもしれません。しかし、まだ作ったことのない商品や新しいプロモーション方法について「見たことがある」人はいません。この「見たことのないものの効果」を想像して、頭の中でシミュレーションして、実際に試してみようと考える人は、日本人の中にそれほど多くはいないのかもしれません。


予測モデルについても、その中身を見たり触れたりすることはできませんし、運用しているところを「見たことがある」人もそうはいません。AIについては、社内の効率性などよりも、同業者や自分たちの顧客が使う製品として開発した方が大きなリターンが見込めると述べましたが、やはり、この世にないAI製品を「見たことがある」人はいません。

ドイツ帝国の宰相であったビスマルクは「愚者は自分の経験に学ぶ」という言葉を残しています。私たちは決して「見たことのないものをイメージする」力だけが人間の知性だとは思いませんが、向き不向きというものはあるのでしょう。弊社データビークルは、まだ誰も「見たことのない」ソフトウェア製品の価値を認識した者同士が集まり創業した会社です。当時製品コンセプトや画面イメージを共有していても、わずか数年の間に何十社もの大手企業から買ってもらえる商品になるとはほとんどの人がイメージできていなかったのです。高い教育を受け、素晴らしい知性を持った人であろうと、「見たことがないもの」の価値を正確に評価することは難しいことなのでしょう。

したがって私たちは、大企業の経営者から直々に「とにかくわが社にデータドリブンな経営を根付かせたい」と相談されたときも、いきなり全社的なデータ活用を進めようとはしませんでした。それよりもまず、この「見たことがないもの」の価値を理解して意志決定し、関係者を調整して、社内を動かすことができる、よい「ボス」がどこにいるかどうかの見極めが重要でした。

私たちは先ほど図で4つの要素で表わされた、サイクルを担当する人について、次のようなポジション名で呼んでいます。チームスポーツにポジションがあるように、データ活用プロジェクトについても4つのポジションで理解すればよいのではというわけです。(図表4-1)

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もっとも希少な人材が、データ分析の結果あるいは予測モデルやAIの精度を見て、組織を前に進めてくれるボスの存在です。ボスは必ずしも役員や事業部のトップである必要はありません。権限が大きければ最終的な成果も大きくなりますが、いくら権限が大きくても、新しいことにチャレンジしないボスはデータ活用向きではありません。

課長であっても管理職というからには何かしらの意志決定の権限を持っています。まずよいボスを見つけたら、その人の権限や社内調整のおよぶ範囲で、何か1個でも、数千万円でもいいので、成果を出しましょう。

データ分析の結果から新しいプロモーション方法がわかれば、ランダムな一部の顧客に向けてA/Bテストをやってみましょう。データ分析の結果から3~5個程度のA/Bテストを試して、かつて何一つ成果が出なかったという経験は私たちにはありません。あるいは新しい商品のアイデアが出てきたら、CGでもphotoshopで合成した写真でもいいので試作品を作ってみて、マーケティングリサーチにかけてみましょう。予測モデルなら一定期間、実際の生産や仕入れは変えられないとしても「その予測値に基づいて運用していたと仮定して」という想定で、公正にかかったコストや売上を記録し、現実と比べてどの程度の利益につながったのか検証してみましょう。AI製品なら、とにかくプロトタイプを作り、関係者のオフィスや家庭で使ってみましょう。

A/Bテストの結果、増加した売上や、予測モデルの試験運用から期待されるコスト削減効果、さらに新製品に対する「買いたい」あるいは「仕入れたい」という要望の件数から見込まれる期待売上などをまとめたものは、少しずつ「見えるもの」に近づいてきます。そうなれば大きな投資や、新たな試す機会につながり、データに基づいて考えられた製品やプロモーションが実際に成功すると、社内外にその成功を「見たことのある人」が増えます。
この時点になると、今までデータ活用に対して非協力的だった他のボスたちの中にも「自分も同じように成功したい」と考えるものが出てきます。このタイミングでデータ活用の範囲を少しずつ広げ、そこで目に見える成功事例を示していけば、いつのまにか「データを活用できる会社」になれるはずです。

本マガジンをここまで楽しく読むことができたという方であれば、きっとよいボスになる適性を持っています。また、そうした仲間が周りにいるという人もたくさんいることでしょう。私たちはこうした意志決定のできるボスを最大限サポートしたいと考えておりますので、皆さんの近くにそのような方がいらっしゃったら、ぜひご紹介下さい。

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