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「データ分析はコミュニケーションツールである」グッデイ 柳瀬隆志氏×西内啓対談 Vol.2

西内啓の対談シリーズ。ホームセンター「グッデイ」の柳瀬隆志さんの第2回目です。実際に小売業ではどのようなデータ分析が行われているのかという基本的なお話から、同社が実験している音声認識技術を搭載した売場案内ボットによって見えてきたことまで、話は広がります。

データ分析によって話の齟齬がなくなった

西内 私たちはこうしてシティズンデータサイエンスが大事だよと啓蒙をしているのですが、分析をする人と業務を知っている人のあいだのギャップがトラブルの元になるというのはよくあるパターンなんです。

企業が、大学院で機械学習の研究をしていた人をデータサイエンティストとして採用したけれど、それまでホームセンターに一度も行ったことがないのにホームセンターの分析をして、分析結果を見て、(最近のホームセンターでは当然のように水が売られているのにも関わらず)「ホームセンターで水を買うのはおかしい」と見当違いなところに着目してしまうということがあったりします。

柳瀬 会話がかみ合いませんね(苦笑)。

西内 自分で服を買ったことないんじゃないかっていうぐらいの人がアパレル業を分析するなど、こうした事例がさまざまな業界で起こっています。

柳瀬 弊社がデータ分析に取り組む前に、外部の企業に100万円ほどかけてデータ分析をしていただいたことがあります。バスケット分析が高速化できるという話だったので、ある店舗で分析をしてみたところ、「トイレットペーパーを買う人は鳥のエサを買っている」という結論が出ました。ですが、その結果についてレジの担当者に聞いたら、特定のおじいちゃんが毎朝、トイレットペーパーと鳩のエサを買って、近くの公園でエサをあげているだけだったということが分かりました。

レジの人に聞いたら1秒で終わる話が、100万円をかけて何の意味もなさなかったというわけです(苦笑)

西内 よくあることですね(笑)。以前から私は必ず3サイクルはデータ分析をしましょうと言っています。1サイクル目は、データ分析の担当者も、現場もお互いのことをよく知りませんから、「とにかくデータはこういってますけどどうですか?」と確認します。すると結構みなさん事前に聞いても教えてくれなかったことを教えてくれるんです。そのフィードバックを踏まえてあと2回ぐらいやると、今まであまり気が付かなかった発見につながることが往々にしてあります。

柳瀬 データ分析をはじめて感じたことは、データ分析とはコミュニケーションツールであるということです。データ分析をはじめる前は社内で数字を見る習慣がなく、何が売れているのか、どんな人が来店しているのか、感覚で判断していたのです。それが、データ分析をしてその場で可視化することによって、話の齟齬がなくなったのですね。特に私のような立場の人間がデータを可視化することで、コミュニケーションを円滑にして、共通の認識をつくることができています。

また、分析した結果を検証して、行動につなげ、もう一度分析に戻すということが非常に大切だと思っています。バイヤーと毎週そうしたディスカッションをしていますと、人によって数字の見方が違うことに気づきます。どうしても直近で取り組んでいる実務が影響してしまったりする。

ほかにも、商品構成グラフ(※)とTableauを組み合わせることによって、自社の販売戦略を明確にすることができます。価格帯やメーカーごとに色分けして、売上高を表示すると、いくらの価格帯がどれくらいで売れているのかが一目瞭然になるんです。「じゃあこのカテゴリで売上を落としているこの部分についてチラシを打ってみよう」ということが、判断できるのです。

※商品構成グラフ:店内の商品構成(棚割)をグラフで表したもの。縦軸に商品の陳列量(フェース数)、横軸に売価をとる。

進捗管理についてもデータを共有する仕組みを作りまして、想定する数字に届かなかったら次の手を打つようにしています。週単位など細かい区切りでやり取りをして、原因は値段・品ぞろえ・売り方のいずれにあるか分析をするのですね。小売業が当たり前にやっていることなのですが、知っているけどできていないことをきちんとやりましょうという話ですね。

前職でお付き合いしてたセブン-イレブンさんやマクドナルドさんでは、社内の方だけでなく、関与しているステークホルダー全員が仮説検証プロセスを回して判断します。会社の文化としてデータ活用が根づいている、理想の小売業だと思いますね。

統計学で得られる数字に何の意味があるかを理解しよう

西内 よく、どこの業界がデータ分析に強いかと聞かれるのですが、業界云々ではなくリーダーとなる人のキャラクターが大きく影響していると思いますね。トップが数字を見て意志決定すべきだと考えていると、下も数字を上げるために、ツールを導入しようという話になります。

柳瀬 経営者で数字をもとに意志決定しない人はあまりいないと思うのですが、システムという話になった瞬間に、数千万円、数億円使わなくてはいけないと思っている人がとても多い気がしています。

西内 そうですね。数字には強いけれどもデータ分析が苦手というパターンも存在していますよね。会計に強すぎると、誤差=悪になってしまう。

でも、優秀な営業マンが毎日同じように営業をしても、数字がまったく同じように上がってくるわけではありません。誤差は常にあるものなので、「ばらつき」という概念をもう少し理解したほうがいい気がします。

柳瀬 「子どもがテストで80点を取ったときに、間違った20点を責めるべきか、正解した80点を褒めるべきか、複雑な気持ちになる」というコラムを何かで読んだのですが、テストの難易度によって結果はまちまちなので、偏差値がポイントになるはずなのに、絶対的な点数を見てしまうものなのだなと感じました。

数字は大切なのですが、その元になっている手法をきちんと理解して数字を見なければ、間違った結果を導き出してしまいます。統計の知識はそんなに複雑な概念ではないと思うので、ぜひ身につけて欲しいですね。

データ活用を目的とするのではなく、やりたいことができる環境づくりを目的にする

西内 BIツールを使用していると、次に見るべき項目のネタ切れを起こしてしまうという問題があるのですが、柳瀬さんはこの点気をつけていることはありますか。

柳瀬 小売業には現場があるので、ネタ切れにはなりにくいですね。弊社では基本的にどこも同じ数字を見ています。売上・仕入れ・在庫・利益率だけですね。現場に落とし込むときには売上・仕入れ・利益率をダッシュボード化し、バイヤーにはビューワーだけ渡して、あまり細かなことは考えさせないようにしています。

統計をやろうと思って、Rを勉強しはじめたときに、レジのジャーナルデータ(※)で部門ごとに何と何が一緒に買われているのかを調べてみたのですが、弊社には4つのパターンしか存在しないことが分かりました。どの店舗のデータを分析しても、「ペット商品だけ買う人」「園芸商品だけ買う人」「工具と金物と建材を3つ一緒に買う人」「なんでも一緒に買う人」の4パターンだったのです。

※ジャーナルデータ:データの変更を時系列に記録したもの。小売業においては売上データを出力したレシート等のデータを指すことが多い。

このように分析をすることで、「それなら、園芸とペットと工具を一緒にチラシに載せよう」とか、「なんでも買う人にはここだけ攻めれば、ほかのカテゴリの商品は勝手に売れるだろう」ですとか、意志決定ができるようになりました。その中でも、日々データ分析の結果が変わるところもあれば、変わらないところもあります。そうした意味では、小売業は一番データ分析をしやすい産業なのではないかと思います。

西内 季節によっても売れるもの、仕掛けるものが変わってきたりしますからね。特に園芸などは、季節商品です。

柳瀬 そうですね。ほかには、前回の消費増税前に何が売れていたのかということも、グラフを出して瞬時に確認できるようになりました。現場スタッフの経験に頼らなくともよくなったのですね。

このようにパターン化できるということが分かりましたので、次に私たちが実現したいのは、パターンを自動的に処理して、結果だけを出すようなアプリケーションや仕組みを作ることです。

今店頭に音声認識技術を搭載した売場案内ボットを置いているんです。実際にどういうことを聞かれるのかを実験したり、アプリケーション化して現場の人が使いやすくなるよう取り組んでいきたいと思っています。

西内 面白い取組ですね。アメリカの音楽業界で、「Shazam(シャザム)効果」と呼ばれる話題をご存知ですか?「Shazam」は、今近くで流れている曲が何かを認識できる、便利なアプリなんですが、どの曲が売れているというデータだけではなく、売れている曲のどこがフックになっているのかというところまで分析ができるんです。

そうすると、今度は音楽の作り手が、みんなのツボをぎゅっと煮詰めたような曲をつくろうという流れになっていて、どんどん音楽の多様性が減ってきてしまっているそうです。ちょっとネガティブな文脈で用いられるようになってきているんですが。

この音声認識ボットでやろうとしていることは、その一歩手前ですよね。ホームセンターに来る人が、名前を知らないままに商品を買いに来られて、その商品をなんと呼ぶのか。単純にそれをテキストマイニングするだけで、この商品はこう呼ばれているんだ、こういう用途として欲しいんだというデータを取ることができるのはとてもおもしろいと思います。

柳瀬 私はそれを可視化してみたりしているのですが、おもしろいですよ。ちょっと見てみますか?

(「石を洗う」「土嚢」「キムワイプ」「セパ」などが目立つワードクラウドがノートパソコンに表示されている)

西内 「石を洗う」っていうのは、アクアリウムの道具ですかね…。

柳瀬 「セパ」は金物ですね。大半の方はセパと言われても金物だとわかりませんよね。

このように、データ活用そのものを目的とするのではなく、やりたいと思っていることをすぐ実現できるような環境づくりを目的に考えています。

みなさん当社独自の事例を聞きたがられるのですが、当社としてはやるべきことをやっているだけなので、事例にはなりづらいな…と思っています。

西内 日々、普段のことをちゃんとしてるだけなんだということですね。

(続く)

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
柳瀬隆志(やなせたかし) 株式会社グッデイ代表取締役社長
株式会社カホエンタープライズ代表取締役社長。1976年福岡生まれ。2000年東京大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。2008年嘉穂無線株式会社へ入社、2013年、嘉穂無線株式会社代表取締役副社長を経て、2016年に株式会社グッデイ(嘉穂無線株式会社より社名変更)の代表取締役社長に就任。現在に至る。


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市民データサイエンスの現場を訪ねて

データビークルの最高製品責任者であり統計家の西内啓がデータ活用で成果をあげている企業・組織のキーパーソンの方とデータサイエンスの現実について語り合う対談シリーズ。
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