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「今まで自分がデータ分析だと思っていた作業は、データ分析ではなかった」グッデイ 柳瀬隆志氏×西内啓対談 Vol.1

データビークルの最高製品責任者であり統計家の西内啓がデータ活用で成果をあげている企業・組織のキーパーソンの方とデータサイエンスの現実について語り合う対談シリーズ。第二弾は北部九州・山口を中心に「ホームセンターGooDay」を展開する株式会社グッデイ 代表取締役社長 柳瀬隆志氏。データ活用で躍進を続ける同社の取り組みについて、お話を伺います。
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

市場分析がマクドナルド相手の仕事につながった商社時代

西内 柳瀬さんはどのようなきっかけで統計学に興味をお持ちになったのでしょうか。

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柳瀬 大学時代は経済学を専攻していたのですが、一般教養科目で履修していた統計学の授業にもとても興味を持ちました。実家が商売をしていたこともあって、数字を集計したりするのは割と好きな方だったんです。

大学を卒業してから三井物産に就職しまして、食料本部の総括部に配属されました。入社2年目には、缶詰や冷凍食品を海外から輸入して国内の問屋さんに売るという仕事を任されたのですが、3人分ぐらいの仕事を1人でやっていて、とにかく忙しかったことを覚えています。

同じやり方を続けていても先が見えないと思ったあるとき、業界誌に掲載されている「通関統計」が目につきました。当時の冷凍食品業界は市場規模が1兆円ほど。その半分が上位3社で占められていました。では、商社としてどこと取引をすれば儲かるんだろう?と調べてみたところ、マクドナルドさんのポテトだったら年間100億円ほどの売上になるということが分かったんです。

それを社内でプレゼンしたところ、奇遇なことに1か月ほど後でマクドナルドさんから、ポテトの輸入ができる商社を探しているという問い合わせを受けました。すでにデータ分析をして社内でプレゼンまでしていたので、これは絶対にとるべき案件だと確信して、9時半に電話を受けて10時半には新宿にある先方のオフィスにいましたね。そこから商売がつながるというようなことがあったんです。

当たり前のことなのですが、市場分析をして、自分たちが狙うべきポイントはどこなのかということをきちんと考えるべきだなと、そのときに思いました。これが自分にとって1つの成功体験になったと思います。

今まで自分がデータ分析だと思っていた作業は、データ分析ではなかった

柳瀬 2008年に、祖父が創業した「嘉穂無線」に入社しました。福岡を中心にホームセンター「グッデイ」を65店舗(2019年4月現在)運営しています。

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弊社では90年代の半ば頃からPOSを導入していて、他社に先んじて自動発注も行っていたのですが、いざデータを分析しようとすると、オラクルのデータベースから生データをいちいち手で抜いてきて、Excelのマクロで加工しなければなりませんでした。柔軟にデータを分析できるようにするため、業務システムに変更を加えようとすると膨大なコストがかかってしまいます。

このように、データはあっても活用できないというジレンマを抱えていたのですが、弊社のような売上320億円という規模の会社では、システム投資に何億円という金額を投資することもできないというのが現実です。

そこで、2015年頃、ためしにTableauというBIツールを使ってみたところ、結構使えるぞということがわかりました。

西内 オラクルやSAPは2010年頃から高額なシステムを販売していましたが、柳瀬さんがTableauを使い始めたのは、エンドユーザーでも使えるお手頃なBIツールが登場しはじめた頃ですね。

柳瀬  そうですね。元々私はスマホやガジェット系のモノが大好きで、デジタル全般が好きだったのですが、大枠の仕組みは理解できていても、自分で何かを作り出すということは全然していなかったんです。

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柳瀬 それまでは、自社のシステム部門の方に「新しい帳票を作ってください」とお願いしても、「どんな項目がどんな体裁でほしいのですか?」と返されて…でもそう聞かれても、自分もどのようなものを作ればいいのか、よくわかりませんでした。

西内 「いい感じでお願いします」としか言えないんですよね。

柳瀬 そうなんですよ。うかつに「こうしてください」なんて言おうものなら、今度は1か月近くかけてプログラムを書いてもらうことになって…。

それで、ちょうどそのころAWSのRedshiftを導入したところだったので、Tabelauとつなげてみたところ、何でも見られるじゃん、と。簡単にデータの加工ができるようになったので、自分がやりたいことはこちらの方だったんだ、ということに気づきました。

Tableauを使ってみて分かったのは、今まで自分がデータ分析だと思っていた作業は、データ分析ではなかったということです。Tableauを使えば、なんでもグラフにすることができるのですが、まったく意味のないグラフをつくっても仕方がないということがわかりました。そこで統計学の必要性に気がついたのです。

昨今AIや機械学習がブームになっていますが、それらも統計を理解していなければ活用することができません。具体的な分析の中身や手法というよりも、分布や分散、回帰など、基本的なことをどう組み合わせたら何ができるのか、統計を学べば応用が利きますし、AIの活用も、統計から得たアイデアをどこに使うのかという意外と簡単な話をしているのですよね。

西内 おっしゃる通りだと思います。

柳瀬 ほかにも、クラウドについて理解を深めようと、AWSやGoogleさんのカンファレンスに参加したのですが、データベースだけの話でなく、サーバレスですとか、大量のデータ処理についてですとか、お話は聞くのですが、これまた社内でどう活用すればよいか、分からないのですよね。たとえばコンテナ化という話を熱く語られているけど、コンテナを何に使うのだろうと。それで自分で手を動かしてやってるとだんだん分かってくるんですけど、環境設定の話などは、自分で動かしてつくって消したりしないと分からないじゃないですか。私はよく、「社長自らなぜそんなことまでやるのですか」と聞かれるのですが、自分がやらなければ話が理解できないのですよね。

西内 それは自分も結構そう思っていて、大学1年生の時に計算機プログラミングの授業があって、Javaを教わっていたんですが、その当時はオブジェクト指向の意味がまったくわからなくて。大人になって複数名でプログラムを書くようになって初めて、「そうかクラスって人と作業分担するのにめちゃくちゃ便利じゃないか」と気が付きました。あれはどう考えてもチームでやらせて必要性を理解させたほうがいいと思いますね。

柳瀬 そうですね。なぜ経営者自ら学ぶのかというと、システムのことをちゃんと理解したうえで、自社にどう活かすのか、社内の課題をデータ的にどう解決するかを考えるためだと思っていますね。技術的に新しい話が出ても理解して、「うちの会社にはこんなふうに使うと便利だな」ということが思いつけるようになります。

(続く)

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
柳瀬隆志(やなせたかし) 株式会社グッデイ代表取締役社長
株式会社カホエンタープライズ代表取締役社長。1976年福岡生まれ。2000年東京大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。2008年嘉穂無線株式会社へ入社、2013年、嘉穂無線株式会社代表取締役副社長を経て、2016年に株式会社グッデイ(嘉穂無線株式会社より社名変更)の代表取締役社長に就任。現在に至る。

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