「BtoBマーケに必要なのは、統計の"知識"と"センス"」シンフォニーマーケティング 庭山一郎氏×西内啓対談 Vol.2
西内啓の対談シリーズ。シンフォニーマーケティング株式会社 庭山一郎さんの第2回目です。アメリカでは現在も個人情報の売買が合法に行われていますが、ノイズの除去のためにはそれにも一理あると庭山さん。また、BtoBマーケティングの設計はセンスと統計の綾織りである、とも語ります。
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属性と行動からセグメントを判定する
西内 先ほど庭山さんがおっしゃった3つのセグメントはどのように判定すればよいのでしょうか?
庭山 セグメントを判定するための方法は2つあって、1つは属性です。まず、部署や役職から、この人は取締役だからオペレーションはしていないと類推します。
もう1つが行動です。執行役員は「隠しコマンド」には興味を示しませんから、隠しコマンドライブラリを見ているのはオペレーショナルユーザーではないかと類推します。どの情報に反応するかということを見るわけですね。
近年、コーポレートサイトのウェブ設計は相当進化していて、データがリアルに、精緻に取れるようになっています。
例えば、ウェブでは見る人間の利便性を考えて、スクロールするのが一般的です。しかし、スクロールだと最後までコンテンツを読んだかどうかが分からないんですね。
それだとマーケティングの観点からはよくないので、私たちはわざと1ページを3ページに区切ったりしています。1ページ目で離脱した人、3ページまで深読みした人、3ページまで見て、なおかつそこに貼ってあった PDF をダウンロードした人、動画を見た人…という点を見ているのです。
チープなデータに基づくマーケティングがノイズを生み出す
西内 最近マーケティングの世界ではスコアリングという話題が出てきていますが、庭山さんがMA(マーケティング・オートメーション)などさまざまなツールを触られている中で、スコアリングのメリットと限界はどのようなところにあるとお考えですか?
庭山 マーケティングの基礎知識やデータのことがわからない方が、流行でMAを購入して活用できないケースは本当に多いですね。
こういったツールのデモで一番デモ映えするのは、いわゆるキャンペーンの設計のようなところなんです。ドラッグ&ドロップで画面を作って、クリックしたら条件分岐で違う画面が表示されるというような…。でも使い方によっては、それが世の中のスパムのもとになっている。興味がないから誰も見ないのに、それが永遠にループして配信されるわけです。
私は、その方法は嫌われるリスクが高いと言っています。
西内 私のところにもどこかで名刺交換した人から、統計学の研修の案内が届くことがあります(笑)。
庭山 そういうことが多いんですよ。私たちは企業のなかに「デマンドセンター」を構築しようとしています。デマンドセンターとは、営業機会の創出を行うための機能・組織の総称を指す言葉で、基本的な要素はデータマネジメントとコンテンツマネジメント、アナリティクスの3つです。そして、これらすべてのレベルが高くないと事故を起こしてしまいます。
ご存知のとおり、アメリカでは今でも個人情報の売買が合法です。アメリカ人とそのことを話したら、一理あるなということを言っていました。
ゴルフ会員権のマーケティングを例に挙げてみましょう。
日本ではどこかから経営者のリストを買ってきて、「経営者はゴルフをするだろう」という類推のもとにリストの全件にDMを配信します。でも、そうしたDMがきた場合、ゴルフをしない人は開封せずに捨てますよね。捨てるのにかかる時間は数秒ですが、DMを発送する側は200円、300円のコストを負担しているんです。もし日本でもアメリカと同じようにデータが流通して、「経営者の中でゴルフをする人」というリストがあれば、そうした人のところにしかDMが行かなくなります。
だから、整備された正しいデータが普及するということはノイズが減って、DMを出す方ももらう方もハッピーになるというわけです。
今の日本には、データマネジメントや統計分析の「いろは」が少なく、チープなデータをもとにマーケティングをすることによりノイズが飛び交ってしまう。そこは大きな問題だと思います。
BtoBマーケに必要な、統計の「知識」と「センス」
西内 弊社のBtoBの事例でこんなことがありました。
Salesforceに溜まったデータをもとに、外部のコンサルタントさんがスコアリングをしてここにテレマーケティングをかけるといいというリストがあったのですが、そのベースがRFM分析(※)だったんですよね。でもRFM分析はBtoBではあまり重要ではなくて、あくまでコンビニやドラッグストアなど小売業界で重要な指標なんですよね。
※RFM分析:顧客分析の一種。Recency (最終購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary (購入金額ボリューム)の 3 つの指標で顧客をランク付けする分析手法。
そういう分析の仕方ではなくて、3日間の展示会うちのどの時間帯に名刺交換したか、どんな商品に興味を持ったか、どんなきっかけでブースを訪れたかといった細かい情報をうちのツールで分析して電話をしていただいたら、すぐに数千万円の受注につながったという結果が出たんです。
こういう、データをきっちりマネジメントしてスコアリングしたり、コンタクトする優先順位など、精度を上げるためのコツがあれば教えてください。
庭山 BtoBマーケティングには、統計の知識だけでなくて、センスも必要です。今まではウェブサイトの評価指標は単純なPVとされてきましたが、これからはリードを集めろというミッションが下るようになるはずです。そこで、リードを集めるためには、フォームの必須項目を減らすほうがいいに決まっているということになるんですが、マーケティングの担当者にセンスが無い場合、会社とメールアドレスだけ登録させるようなことをしてしまいがちです。
その人は電話番号はクロールソフトをつくってあとから集めればいいというのですが、そこに書いてある電話番号は代表電話なのです。そして、代表電話を取る人は営業電話を撃退するトレーニングを受けてるんですね。そういう意味では名刺に書いている直通の電話番号情報というのは非常に重要であるということがわかるはずです。ですから、私はマーケティングの設計はセンスと科学の綾織りだと思っています。
もっというと、私は(営業の担当者が)CRMツールに入力したデータはそもそも使わないほうがいいと言っています。
「NEC(日本電気株式会社)」さんの表記の揺れが何種類あるかご存知ですか?40種類以上あるんですよ。ほとんどの人は正式名称の「日本電気株式会社」とは書かず、「NEC」と書くのですが、これも全角英語、半角英語、カタカナ、中黒が入る、入らないとか…株式会社も(株)だったり株式会社だったり…これを統一しないと名寄せができないんです。
どこのデータが比較的正しいのかを見極めるのもセンスで、今の日本のマーケティングの悲しいところは、ロジックとセンスを両方持つ人がまだ少ないというところだと思うんですね。
自動車がMAだとするならば、教習所も行ったことがないという人が無免許運転をしている状態なので、あちこちで事故が起きているのです。ですから、教育はすごく大事だし、テンプレート化してあげないといけないと思います。
西内 人気のあるCRMソフトはカスタマイズなどの柔軟性で成長していると思っているのですが、あの柔軟性はいざ分析するときには大変ですよね。企業番号、法人番号を選択式にしたり、入力しているうちにレコメンドが出たりすればいいのにと思います。
庭山 BtoBのウェブで一番導入して欲しいのは、フォームのサポートサービスですね。NECと入力したら日本電気株式会社が表示される機能があるとすごくいいですよね。
西内 「経営戦略部」が実は「マーケティング部」だったりするように、独自の部門名がついているものの実情が「情報システム系」なのか「営業企画系」なのか「マーケティング系」なのか、判断してくれる機能も欲しいです。
庭山 役職もそうで、名刺に書いてある役職がおよそどの階層にあるのか分からないということが結構あるんですよ。ですから、階級でくくる場合には、執行役員・事業本部長以上はCクラス、課長補佐以上はマネージャークラス、それ以下をスタッフクラスというふうに分けないと収拾がつかないですよね。
お客さまの中には「課長補佐をターゲティングしたい」と言われる方もいますが、会社によって呼び方が違いますし、大手の企業では部署の名前が年に3回ぐらい変わったりすることがあるんですよね。ですから、ある程度大ざっぱに見ないとかえってデータが汚くなってしまうのです。
(続きます)
西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
庭山一郎(にわやまいちろう)シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役
1962年生まれ、中央大学卒。1990年にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。1997年よりBtoBにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティングサービスを提供している。ライフワークとして、ブナの植林活動など「森の再生」に取り組む。