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第21回 社内政治を乗り越えろ(2)

シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

ボス以外のポジションの役割

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多くの日本企業において、もっとも人材が不足しがちなポジションはこのボスですが、それ以外のポジションの役割もデータ活用に欠くことができません。多くのボスはデータ活用以外にもさまざまな意志決定や関係各所の調整に追われますので、ボスの管轄する事業の「現場」を確認する相手が他に必要になることもあります。これが「エキスパート」と私たちが呼んでいるポジションです。製品を企画するには設計や製造オペレーションを知らなければなりませんし、プロモーションを企画するには広告代理店や販路とのやり取りを知らなければなりません。予測モデルを運用するにしても、原材料の発注や工場のオペレーションという事情を知る必要があります。こうした事情をよく理解していれば、それだけデータ分析や予測モデルを効率的に活かせますが、知らなければ「現場レベルでナンセンスとされること」ばかりを考えてしまうかもしれません。

また現場は人やお金が動いているところだけではありません。データがどこで、誰の権限で、どのように管理されているのか、という「データ側の現場」もデータ活用では重要になります。こうしたことを相談できる相手のことを私たちはデータマネージャーと呼んでいます。

追加で何かデータが必要になった際に「あるのかないのか」「あるとして誰に相談すればよいのか」という話が出ることもありますし、入手したデータにおかしいところや不明なところがあった時に「なぜこのようなことになるのか」とすぐに確認できる相手がいれば、それだけでデータ活用のスピードはアップします。

最後のポジションが分析担当者あるいは予測モデルやAIの開発者です。どこの会社に行ってもこの担当の「人材がいない」といわれることがありますが、私たちの考えではボスに比べればこのポジションに関しては意外となんとかなってしまうことが多いです。弊社は、少なくともデータ分析と予測モデルの構築に関しては、ある程度までかなり簡単に作れるようなツールを開発して売っているからです。また、AI開発についても、多少プログラムが書ける人であればGoogleが開発するTensorFlowの機能を使って、ちょっとしたプロトタイプはすぐに作ることができるようになっています。

市民データサイエンスの時代へ

私たちは創業当時から一貫して「データサイエンスを全ての人に」という考え方で会社を育ててきました。この考え方は創業当時にはあまり支持されてはいませんでしたが、その考え方は少しずつ現実化しています。

この数年、大きく注目を浴びたAIという技術ですが、ガートナー社のレポートにおいて(本マガジンのの元となる書籍発売当時の)2018年の日本では、すでに「過度な期待のピーク」を超え、幻滅期に差し掛かろうとしていると言及されています。もちろん本書で書いたような意義のある省力化につながるAIはこれからどんどん開発されていくことだと思いますが、「何となく作られたAI」に幻滅して冷静になっていくビジネスマンは私たちの周りにもたくさんいます。ガートナーによれば、AIがメインストリームの技術として採用されるようになるまでには今後5~10年ほどかかるそうです。

その一方で私たちの考えるコンセプトと合致するものがガートナーの最新レポートに登場します。それが「市民データサイエンス」という考え方です。専門的なデータサイエンティストでなくても使える便利なツールを通して、ビジネスマンや公務員など全ての市民が自分たちの仕事のためにデータサイエンスを活用するというわけなので、まさに私たちが長年取り組んできたことだといえるでしょう。そうした状態を支えるツールをガートナーは「拡張アナリティクス」と呼び、幅広いユーザーに高度な洞察を与え、最適な意志決定を導くものだと表現しました。BIツールともAIとも異なる私たちの製品には、長年その特徴を指す適切なカテゴリーが存在していませんでしたが、意図せず私たちは日本で最初の拡張アナリティクスツール屋さんを創業していたことになります。またガートナーは、2020年までに市民データサイエンスによる高度な分析の量が、専門的なデータサイエンティストによるものを上回るとも予測しています。

※拡張アナリティクスに関しては以下の記事でも詳しく解説しています。

私たちはツールと教育プログラムを通して、これまで数多くの市民データサイエンティストを育成してきました。専門的なデータサイエンティストと違って市民データサイエンティストになるために必要なスキルはプログラムを書けることや高度な数学を理解していることではありません。もちろんエクセルが得意というぐらいの最低限のITリテラシーは必要ですが、社内外の現場のエキスパートや、データマネージャーとディスカッションし、そこから学び試行錯誤を繰り返すタフさの方が重要です。データ活用の仕事において、一度分析したら終わり、とか一度予測モデルやAIを作ったら終わり、ということはなく、何度も継続的にサイクルを回し続け、ボスに働きかけて、といったことができなければデータから価値は生まれません。

しかしデータから「見たことのないもの」を生み出して、それが現実の会社のお金や、喜ぶ顧客の姿という形で価値に変わる瞬間は、とんでもなく気持ちのよいものであることは私たちが保障します。

皆さんがこのような気持ちのよい体験ができるきっかけに、本書がなったとしたら、私としてもこんなにうれしいことはありません。