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「100億円以上の製品も、ロジカルに説明できれば売れる」シンフォニーマーケティング 庭山一郎氏×西内啓対談 Vol.1

データビークルの西内啓がデータ活用で成果をあげている組織のキーパーソンとデータサイエンスの現実について語り合う対談シリーズ。今回はBtoB専門のマーケティングアウトソーシングサービスを展開する「シンフォニーマーケティング株式会社」代表の庭山一郎さんが登場します。第1回目は、「BtoBマーケティングの基本」について、お話をうかがいました。
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

エモーショナルなBtoC、ロジカルなBtoB

西内 はじめに、庭山さんのご経歴と、御社の事業内容を教えてください。

庭山 私は今年57歳で、マーケティングに出会ったのは20歳のときのことです。大学は法学部だったのですが、当時図書館でたまたまセオドア・レビット博士(「マーケティング近視眼」の論文で知られるマーケター)の本と出会い、マーケティングを生業にしようと決めました。

その後マーケティングの会社を2社経験し、1990年にシンフォニーマーケティングを創業しましたが、37年間マーケティングをやってきて飽きたと感じたことがありません。

弊社は、設立当初5年ほどコンサル業をしていました。その頃、ちょうど世の中にCRM(Customer Relationship Management、顧客管理)などのシステムが登場しはじめたころで、顧客データをどう管理し、どうコミュニケーションすれば一番売上が上がるのかということをやっていました。

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西内 1990年初頭といえばSalesforceが登場する少し前ですね。

庭山 そうです。BtoCの顧客データ管理ツールや、購買履歴を管理するCRM、営業のパイプラインマネジメントをするSFA(Sales Force Automation、営業支援システムのこと)が登場しはじめた時代でしたが、お客さま向けに研修をしていると、みなさんが望んでいるのはコンサルではなくハンズオンなのではないだろうかと感じたのです。

そこで、1990年代の後半にコンサルをやめ、大企業向けのBtoBにフォーカスし、ハンズオンのサービスを提供するアウトソーシング業に業務内容を変更しました。当時のクライアントは外資のIT企業が中心でしたが、この10年ぐらいで7〜8割が日本企業になりました。日本の大手企業、特に製造業がクライアントの大半です。

西内 最初からBtoBにフォーカスされていたのでしょうか?

庭山 いいえ。コンサル時代はBtoCもBtoBもやっていました。ですが、BtoCは「難しい」というのが私の結論です。BtoCは情緒的な要素が多く、事前に「これが売れる」と予言できる人は少ないため、ロジカルではないと感じています。私は37年間マーケティングをやってきましたが、何故コカ・コーラが売れ続けているのかと聞かれてもいまだに説明できません。

一方でBtoBは「稟議」というプロセスが入るので非常にロジカルなんですよ。はじめてSAPの案件をやらせていただいたときのことです。当時売上高1兆8千億円の会社からSAPを導入したいという相談が寄せられたのですが、導入に100億円かかるということになりました。そんな高価なものが売れるわけがないと思ったのですが、その会社はERPシステムを導入することで在庫が1,200億円ぐらい圧縮できるので、1ヶ月で回収できると導入を決められました。

たとえ100億円以上の製品でも、費用対効果がロジカルに説明できれば売れると知り、弊社はBtoB専業にしました。

BtoBのマーケティングには40年前のフレームが今でも生きる

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西内 これまで国内においてマーケティングといえば「BtoC」側からの知見がほとんどで、コモデティ(日用品)を消費者に売るためノウハウが多かったように思います。

洗剤のようなコモディテイはもはや品質では差別化が難しいので、香りやパッケージのような情緒的な要素でのマーケティングに終始しがちです。そうすると結局強いブランドは強いままですし、論理的な戦略を考えるのはなかなか難しい部分があります。

一方で、ITシステムのようなBtoBの商材にも明らかな「好み」があります。例えば、データ分析の世界には「SAS」を好む人と「SPSS」(※) を好む人がいて、彼・彼女たちは価格が安くなったとしても絶対にスイッチしないと思うんです。

※SAS、SPSS=どちらも統計専門ソフトの名称。


西内 庭山さんはBtoBとBtoCにおける「エモーショナル」の違いをどのようにお感じになられていますか?

庭山 BtoCの場合は、「買う事が目的たりうるもの」がたくさんあると思うんですね。たとえば車好きの方たちはいくら燃費が悪くても、数千万円する外車を購入されたりしますよね。

一方で、BtoBは会社のお金を使うがゆえに、買うこと自体が目的になることはなくて、あくまで手段なんです。「稟議」というものがありますので、製品を買うことによって何がどうなるのかということを明確に説明しないと社内で承認されません。このように、BtoBのマーケティングは徹底してロジカルですから、40年前、50年前のフレームが今でも生きるのです。

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 正しい「ユーザー」「パーソン」「インフォメーション」「タイミング」 を見極める

西内 ロジカルに伝えるには、製品のメリットをアピールすることがコミュニケーションの中心になるかと思いますが、競合製品との違いを100個挙げたとして、その中のどれを誰にどうやって伝えるかというところは大事だと思います。

庭山 先ほどおっしゃったSASとSPSSの話などはまさにそうだと思います。私たちはユーザーを「オペレーショナルユーザー」「テクノロジーユーザー」「エコノミカルユーザー」の3つに分けていますが、SPSSからスイッチしない人というのは、このうちの「オペレーショナルユーザー」なんですね。

「オペレーショナルユーザー」は製品を日々使って業務をしている人を指します。彼らはシステムの選定には関わりませんが、敵に回すとまずい相手です。使い慣れたシステムが好きなので、基本的に他のシステムには変えたくありません。この人たちには秘密のショートカットキーや隠しコマンドなどの情報を渡すと、そのシステムのファンになってくれます。

その上に「テクノロジーユーザー」がいて、この人たちがシステム選定の主導権を握っています。稟議を書く人ですので、この人に1番コアとなる情報を渡さなければいけません。

テクノロジーユーザーの上には財布を握っている「エコノミーユーザー」がいますが、この人たちの関心事は2つです。1つは、自分たちと同じような規模の同業他社はどういうことをやっているのかということ。もう1つは、製品の導入にはいくらかかって、何年で償却できるのかという費用対効果です。

営業先のデータがきれいに整理整頓されていれば、それぞれに適した情報を渡せるのですが、データが整理されていないと適切なユーザーに正しい情報を届けることができません。

こうした「ライトパーソン・ライトインフォメーション・ライトタイミング」というマーケティングの基本は、私がマーケティングを学びはじめたときから変わらないんですね。

誰が正しい人で、その人にとって必要な情報は何か。その情報が必要になるタイミングはいつなのかということを見つける技術が、インターネットやコンピュータの登場で解析しやすくなったというだけのことなのです。私がデータのマネジメントにおいて気を使っているのはその点です。

(続きます)

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
庭山一郎(にわやまいちろう)シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役
1962年生まれ、中央大学卒。1990年にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。1997年よりBtoBにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティングサービスを提供している。ライフワークとして、ブナの植林活動など「森の再生」に取り組む。