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現在の数学教育に欠けているのは「リアリティ」だ/【特別対談】堀口智之氏(和から)×西内啓 Vol.1

今回は特別企画としてデータビークルとともに「ビジネス数学・統計学基礎講座」を運営している「和から」代表の堀口智之さんに西内啓がお話を伺います。「和から」は「大人のための数学教室」を渋谷や新宿、大阪で開講。数学を学ぶ目的・分野に合わせた授業が好評です。
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

起業の根拠は「大人・数学」という言葉の検索数

西内 堀口さんは学生時代、どのような勉強をされてきたんですか?

堀口 私は、もともと構造化された非常に美しい数学の世界に魅力を感じていて、数学を学びたいと思っていたのですが、途中でより現実的な問題に対して興味を持ったこともあり、学生時代は物理を学んでいました。

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堀口 当時は有機ELなどの半導体について研究していたのですが、途中大学を1年ほど休学してベンチャー企業で働いた経験の方が刺激的だったんです。立ち上げ1年目でしたから営業・事務・資料作成・プロジェクトマネジメントなど、さまざまな仕事をさせていただいていました。

西内 インターンシップのあと、どのような経緯で「和から」を創業されたのですか?

堀口 休学中はとにかくビジネスのことを学びたいと思い、インターンシップだけでなくさまざまな企業で働きました。数えてみると20種類ぐらいですね。それで、当時 、大人向けの数学の本が売れているという情報をキャッチしまして、それをビジネスにするのもおもしろいのではないかと思ったのが「和から」の始まりです。

当初、見込みがまったく分からなかったのですが、起業の根拠は2つありました。1つ目が当時大人向けの数学本が30万部売れていたということ、2つ目がインターネットで「大人 数学」「社会人 数学」をキーワードに検索している人が月間2,000人ほどいたことです。

ということは、2,000人のうち1%でも自分たちの塾に通ってくれたら、月間20名ぐらい通ってくれることになりますよね。それが継続的に続くのであれば、お客さまの数はどんどん増えるというロジックがありました。

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西内 当初の計画にはどれぐらいで到達したんですか?

堀口 2年目には当初計画した売上を達成することができました。数字がきちんと証明されていて、うまくいくとわかっていても、やり始めるときってやっぱり怖いし、本当にうまくいくのかという周囲のネガティブな意見に影響されたりするんですよね。おかげさまでうまくいっていますので、よかったと思っています。

お客さまの学びの目的に合わせた学びを提供する


西内 「和から」さんは大人の数学教室を展開されていますが、授業のカリキュラムはどのようになっているのですか?

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(和からの授業のイメージです)

堀口 カリキュラムの大枠はありますが、実は明確に決まったものはないんです。

起業した当初は、趣味で高校数学や中学数学を学びたいという大人が来て、そういう方にゆっくり教えていくことになると認識していたんですよ。ところが実際にはじめてみると、仕事で数学を使うのだけど、苦手でどうしようもないとか、仕事でデータ分析をしなければならなくて統計学を学ぶ必要があるというニーズが意外と多くて、それに対応するようになりました。

実際に教えてみて思ったのは、お客さまそれぞれの個人の能力が全く違うということです。たとえばコンビニの店長をやっている方であれば、コンビニを事例にして来店客数が何名で、平均単価がいくらで、だから売上はこれぐらいですよね、というロジックをお話したりすると飲み込みが早い。

それで、それぞれの方の業種や、働いている分野に沿った内容で教えることが多くなりました。今では受講前に職種や数学を学ぶ目的をヒヤリングして、それに合わせて教えるようにしています。

同じ高校数学を学ぶのでも、仕事のためなのか、本を読めるようになりたいのか、趣味で学びたいのかで学ぶべきことは全く違います。たとえば統計学のことを学びたいという人に必要な数学の知識は範囲が限られています。

我々の仕事はキュレーションです。すべて学ぼうと思えば情報はネットに転がっています。ただ、お客様に今必要な情報は何かということを選んでお伝えするというのが私たちの仕事かなと思っています。

「数学の本、食塩水混ぜすぎ」問題

西内 相手の理解に寄り添うということは、自分も心がけてる部分です。既存の数学の書籍の問題はとにかくたとえがわかりにくくて下手だということです。抽象的すぎるか幼稚すぎます。

大人が読む数学の本に、なぜか「タカシくんがリンゴを買いに行く」例が何回も出てきます(苦笑)。そうかと思えばあまりに抽象的な方向に寄せすぎて「毎秒3センチ動く点P」が登場してくる。頑張ってビジネスに寄せようとしている本でも、たとえが下手で「商売でそんな状況ないよ!」ということもある。

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西内 数学は抽象化の世界の話で、リンゴだろうが点Pだろうが、なんでも数字はxと置くことができる。なんならxが複数あったらそれらをまとめてベクトルにしてしまえるし、さらに抽象性を高めれば「群」にもなります。

そういう抽象化が得意な人が数学を好きだったりするんですが、実際の具体例を出すときあまりにもトレーニングされていなさすぎてギャップが発生してしまうのではないかというのが自分の仮説なんです。

このあたりは自分の著書のなかでもものすごく気をつかっています。

堀口 確かに、西内さんの本を読んでいると、数学愛も感じつつ、社会のこともわかっていらっしゃるという、微妙なラインをついてくるところが非常に面白いです。数学についてちゃんと深く語りつつ、現実ではこういう風に使っていけばいいよというところをきちんと表現なさっていますよね。

数学の問題ってしょっちゅう食塩水を混ぜたりしているんですよ。でもちょっと待って、私食塩混ぜたことないんだけど!って(苦笑)。確かにパスタをゆでるときに水に食塩を入れるけど、10%の食塩水って相当しょっぱいですよ。

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堀口 そうじゃなくて、はじめにたとえば事業の利益率を計算するような事例を話して、A事業とB事業とC事業があって、それぞれ利益率が20%、30%、40%というときに、一見平均の利益率は30%だけど、そうじゃなくて食塩水の計算のときのようにそれぞれの事業の売上高という重みを考えると利益率って違ってくるよね…なんて話にもっていくようにしています。

そういう微妙なリアリティが今の数学には欠けているんだと思います。

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後編はこちら



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