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「データをもとにした出店予測や販促が経営のムダをそぎ落とす」ワークマン 土屋哲雄氏×西内啓対談 Vol.2

西内啓の対談シリーズ。「ワークマン」土屋哲雄さん、長谷川誠さんの第2回目です。ワークマンのターゲットとするプロのお客は、工事現場が流動的なため出店予測が難しいと語る土屋さん。ブルーオーシャンの中で放つマーケット拡大戦略や、ムダをそぎ落とす経営についてお話が展開します。
シティズンデータサイエンスラボは「データサイエンスを全ての人に」を掲げる株式会社データビークル(https://www.dtvcl.com/)が運営する公式noteです。

作業服向けの店舗は出店予測が難しい

西内 多くの小売業にとって出店計画は大きな課題ですね。

土屋 予測モデルが当たる業種と、当たらない業種がありますね。うちはなかなか当たりにくいです(笑)。

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長谷川 既存のワークマンの店舗の予測は難しかったのですが、最近ワークマンプラスの売上を予測をすると結構当たります。

西内 素晴らしい。

土屋 ワークマンプラスは商圏が広いから余計予測しやすいのかもしれません。

西内 そうですね。プロ向けの業態であれば、工務店の立地やそこにお勤めになっている従業員数のデータも参考になりそうです。

土屋 ワークマンには独自の対象人口がいるんです。そこに住んでいるかどうかというより、職場から近いかとか、通勤の行き帰りに寄りやすいかどうかなどが重要です。あとは、プロのお客さまはオフィスではなく現場で働く方が多いので、1つの工事が終わると次に移動するという特性もあります。

西内 確かにプロ向けの予測には、工事現場のデータを把握する必要もあるんですね。

データをもとにプロ向けのチラシを縮小。ムダをそぎ落とすデータ経営

西内 今までしてきた中で、これは面白かったという分析はありますか?

土屋 売上と湿度の関係でしょうか。我々が扱うのは機能性ウェアですので、真夏の暑い時と真冬の寒い時が1番売れるんですよ。特に夏は気温よりも、湿度、蒸し暑さに比例します。

長谷川 最近では、チラシの売上増加分析の評判がよかったですね。プロ向けに構成していたチラシを、ワークマンプラスに合わせて一般のお客様向けに構成しなおした時に、どれぐらいの割合で商品がヒットしたかという分析をしました。

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土屋 プロは9割以上が常連で、月1回来店されるので、チラシなんか見ないんですよ。欲しいものが決まっているんですね。例えば、高所作業する方ですと、どんなものを宣伝しても自分が20年使ってきた高所作業靴以外買いません。人気の商品をアピールしても全然見ない。そういう人向けにはチラシをやめてしまっても、売上には影響がありません。

長谷川 今、プロ向けのチラシはやめて、どんどん一般向けの内容に変えているのですが、売上の増加も相当大きいです。これも調べてみなければ分からなかったことですね。

西内 データ分析なしにチラシをやめましょうとは言えませんね。

土屋 プロ向けのチラシはだんだん縮小していったのですが、売上への影響はありませんでした。他に、チラシがある週とない週でどれだけ売上が違ったかという分析も5年ぐらいしてきていますが、これもあまり変化はありませんでしたね。

長谷川 そうですね。チラシがある週でも10%増しぐらいにしかなりません。

土屋 今、弊社で一番大きな命題は、一般向け製品の生産量の決定です。ワークマンプラスは1年目はブームとなって多くのお客さんに来店いただきましたが、2年目にリピーターになっていただけたかどうかが一番重要です。それによって、生産量が1.5倍になるのか、ブームが終わったから1.1倍とするのかが決まります。

弊社は店舗が標準化されているのでサンプリングによってかなり精度の高い予測ができます。そこで、5店舗でサンプリングをして一般客のリピート率を調べたところ、7割から6割が固定客になっていて、年2回から4回来店していただけているということが分かりました。ですから、リピート率がものすごくいいんですよ。

製品開発を中心に、ゆっくりと戦略を展開していく

西内 ここからどのような市場に展開していきたいかという展望はありますか。

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土屋 現在弊社のアウトドアウェアは売上高400億円で市場の10%のシェアを取っているのですが、低価格帯の商品で弊社と価格競争できる会社は1つもないんです。

競争がないのでゆっくりシェアを取っていけばいいのではないかと思っています。無理に拡大しようとすると、社員を増やすことになり効率が下がります。15年ほどかけて少しずつ増収増益していくほうが効率的に成長できるのではないかという考えです。

もう1つ、これまで弊社は競争をしたことがない会社ですので、競合が現れたら負ける可能性があるんですね。その時は、現在重点を置いているカテゴリーを捨てて、別のカテゴリーに軸足を移すつもりです。

たとえば、女性向けのショップでアウターが2,900円と3,900円、パンツは1,900円と2,900円のみというツープライスショップができないかとか。ワンプライスの靴専門店もできるのではないか、などなど。長靴は数百億円のマーケットがあり、弊社はそのうち2割のシェアを持っていますので、そうした展開も視野に入れています。

マーケティング面では、最近インフルエンサーの方に製品を紹介したり、製品開発にご協力していただいたりしています。

インフルエンサーさんに製品開発に関わっていただいているので、当然インフルエンサーの方も詳しくその製品のことを知っていていただけるのですよ。そうすると、早めに情報をリリースすることができるので、インフルエンサーさん側もフォロワーが増えるんです。お互いWin-Winの関係ができています。

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
土屋哲雄(つちやてつお)東大経済学部卒、三井物産株式会社入社。海外留学、三井物産デジタル社長、本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理。三井情報株式会社取締役。株式会社ワークマン常務取締役経営企画・IT・ロジ担当(現任)。

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