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「意思決定者が皆データを扱えるからデータ経営の文化が根づいた」ワークマン 土屋哲雄氏×西内啓対談 Vol.3

西内啓の対談シリーズ。「ワークマン」土屋哲雄さん、長谷川誠さんの第3回目です。6年前からデータ経営にシフトしたワークマンでは、社長をはじめとする意思決定者は皆データを扱うことに長けているそうです。そうした土壌に、徹底したデータ活用という文化が名付いているようです。

値引きはせず欠品を抑えてロングテールで売る

西内 勝ちパターンが出そろって、ワークマンはここからさらに成長が見込まれますね。

土屋 今長谷川の1番重要な仕事は来年(2020年)の生産量を計算することです。失敗すると100億個単位で在庫になります(苦笑)。

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西内 アパレルの予測は難しいですよね。

少し前の話ですが、アパレル業界全体でデニムのジャケットを流行らせようと仕掛けていたのだけれども、スギちゃんが登場してその仕込みが吹き飛んでしまったということがあったそうです。さすがにデータからはどうやっても予測できなかったという例ですね(笑)

土屋 私どもの扱う作業服は流行に左右されるようなカテゴリではありませんので、弊社では値引きはせずにはじめから安い価格を提示して、製品寿命を5年と長期に設定するという戦略をとっています。

もともとの価格が高いと最終的には値引きをして売り切らなければならなくなりますが、それでは「価格の信頼感」がなくなってしまいます。そうするとお客様はバーゲンでしか買わなくなる。商品の販売期間が短くなって、売れ残りにつながるという悪循環に陥るわけです。

作業服は10年売ることがマストで、欠品を出してはいけません。欠品になるとクレームにつながりますので、サービス率(欠品を出さない率)99%を目指しています。

かたや一般客向けのアパレルは、余らせずに売り切る必要があります。人気商品は、1年目に3万個作ってテスト販売をします。通常、アパレルでテスト販売するときは1万個ぐらいなのですが、弊社では3万個作っても品切れになって、ものすごくクレームがくるんですよ。

3万個しか作らないから品切れになるのであれば、最初から5万個、10万個作ればいいのですが、在庫が余ると今度は2年目の数字を正確に予測しなければならなくなります。難しい部分です。

長谷川 今のところうまくいってはいますが、一般向けのアウトドア製品はトレンドが変わるのが難しいところですね。

土屋 低価格の作業服は競合がいないので、需要量が安定しています。弊社の商品は3,000円でも伸縮性や通気性など高機能なので、競合メーカーは低価格帯をやめて1つ上の5,000円のマーケットに移行しました。

西内 ということは、5,000円の価格帯の商品は競合の動向に振り回されてはいるものの、3,000円の価格帯の商品は昨年と同じ需要量か、せいぜい気候に左右される程度となっているのでしょうか。

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長谷川 そうですね。前年とほぼ同数で動いてます。

意思決定者もデータを扱えるところにデータ経営の土壌がある

土屋 売れ残りそうなものに販促をかけて売り切るための、「販促アラート会議」も重要な仕事です。シーズンごとに2回、3カ所で取得したそれぞれ根拠が異なるデータをもち寄って議論をし、それに基づいてPOPや、陳列、チラシなどで販促をかけます。そこで出た在庫の数量によって、今後のオペレーションを決定します。

このように、幹部社員もデータを使いますし、社長もデータを見ています。陳列のレイアウトまで数字で検証しているんです。

西内 この棚ではどれくらい商品が売れているか、どれぐらい回転しているかという数字ですね。

土屋 そうです。データ経営の布陣はこれで完成かなと思っています。

西内 他社でもみなさんデータを使おうとするのですが、最後の意思決定のところで止まってしまうことが多いですね。いくら素晴らしいデータがあっても、上の人が「慎重に議論したほうがいい」といって止まってしまうんです。御社では意思決定を行う人たちがみなさんデータを扱うのが当たり前になっているようですが、データ経営を始めたころからそのような文化が生まれたのでしょうか。

土屋 はい。データ経営を導入しはじめた6年前からですね。それ以前は店舗の数量データすらなかったんです。売上の金額は出ているのですが、何が何個売れたかまではわからない丼勘定だったんですよ。

ワークマン自体が合理的な会社ですから、無駄な数量管理をしていなかったともいえます。明細データがなかったので発注のシステムから明細データを取ることにしました。

ただ、これにはコストがかかりますので、データを使うなら徹底的に使わなければという雰囲気になりました。きちんとデータを取り始めたのはBIが入ってからですが、数字が何もない会社がここまでやってこられたのはすごいなと思いますね。

他に、データベースを導入して会社が変わったかどうかの調査を私が行いました。データベースを導入して6ヶ月が経過した時に、営業部110人がどれくらいデータベースを活用しているかのランキングを出したんですね。そのうち、1位から10位と、100位から110位の人たちと一緒に店舗回りをして、この6ヶ月で仕事がどう変わったを観察しました。

結果で言うと、データベースをたくさん使った上位の10人は数字を使って店長を説得し、下位の10人はコミュニケーション能力の高さで店長を説得していました。ですが、新卒で入社した人は、コミュニケーション能力で説得するより、データを活用して説得した方が簡単ですよね。

店長をデータで説得して本部方針に沿えば絶対に利益が出るんです。いろいろなパスはあっても簡単なのがデータ経営ですので、データで判断することを社内の標準にしようと考えています。

価格を標準化して得られるきれいなデータが強み

土屋 あとは、価格帯を980円、1,900円、2,900円、3,900円、4,900円と5つに整理しました。例えば冬ものだと1,900円は防風、2,900円は防寒、3,900円は重防寒、4,900円は暑いほどの防寒というふうに整理して、特売や値引販売はしないんです。そうするとゴミデータが出ません。きれいなデータが弊社の強みだと思います。

西内 それは分かりやすいですね。データの扱いがシンプルだと、防寒の商品の売上数量は年ごとにはあまり変動しなかったり、その内訳としてカラーバリエーションをどうするかということが検討できます。

土屋 商品数が多くロングテールなのですが、その中からアイテムを切り出すだけで新業態ができるという利便性もあります。

西内 常に先のことを考えているわけですね。

土屋 ただ、この10年ぐらいはアウトドアで収益を上げていけると思いますが、その次は女性向けでやるのか、スポーツでやるのか、靴でやるのか…何かしらしかけていくつもりです。

西内 そういった新業態も見据え、データの活用というところで今後のビジョンを教えていただけますでしょうか。

土屋 今1番力を入れているのは自動発注です。半分の店舗に導入したのですが、もっと精緻なものを作りたいと思っています。現在、売れ筋のものをマークダウンする際は1.5%しか値下げしないんですが、2%ぐらいで処分した方がよいのではないかという議論もあります。自動発注システムにはそうしたシミュレーションができる機能を入れたいと思っています。

データ経営を進めて、SV の店舗巡回をリアルとネット半分ずつにするところがゴールだと考えています。5年でだめなら10年で、15年かかっても、一旦出した方針は変えません。競争がない業態ですので、納期よりも品質の高いものを作ることが優先でやっていきます。

西内 本日は貴重なお話をありがとうございました。

西内啓(にしうちひろむ) 株式会社データビークル 最高製品責任者
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かした拡張アナリティクスツール「dataDiver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。
土屋哲雄(つちやてつお)東大経済学部卒、三井物産株式会社入社。海外留学、三井物産デジタル社長、本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理。三井情報株式会社取締役。株式会社ワークマン常務取締役経営企画・IT・ロジ担当(現任)。

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